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目次 【時事】ニュースルイズ・フロイス 【参考】ブックマーク 関連項目 タグ 最終更新日時 【時事】 ニュース ルイズ・フロイス gnewプラグインエラー「ルイズ・フロイス」は見つからないか、接続エラーです。 【参考】 ブックマーク サイト名 関連度 備考 ピクシブ百科事典 ★★ 関連項目 項目名 関連度 備考 参考/織田信奈の野望 ★★★★ 登場作品 参考/佐藤利奈 ★★★ キャスト タグ キャラクター 最終更新日時 2013-12-14 冒頭へ
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前ページ次ページアウターゾーンZERO その頃、トリステイン魔法学院は大騒ぎになっていた。 謹慎中のルイズがいなくなったことはもちろんだが、学院の一室に安置されていたはずの才人の死体が消えてなくなっていたのだ。 ルイズが殺人で捕らえられることを恐れ、証拠隠滅のために死体を持ち去ったのか? その路線が濃厚だ。 直ちに捜索隊が組まれ、ルイズの行方を追うことになった。 もし見つかれば、重い処分は免れないだろう。 話はトリステイン総合学院は戻る。 ルイズは学院長室に通された。 「ようこそ、我が学院へ。私が当学院長のエーゲリッヒ・オティアスです」 オティアスと名乗った学院長は、にこやかな笑みを浮かべていた。 しかし、どうも面に貼り付いたような笑顔が気になる。 魔法学院のオールド・オスマン学院長よりやや若く見える。頭は禿げ上がり、コルベールといい勝負だ。 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと申します。よろしくお願いします」 「まあ、そう堅くならずに。私が、この学院の案内をさせていただきます」 オティアス学院長が自ら案内役となり、学院内を見学することとなった。 「まず、この学院は徹底した学力による実力主義を取っています。クラス分けは学力によって決まり、クラスによって生徒の待遇が違います」 学院長の説明を、ルイズは神妙な面持ちで聞く。 「テストを毎日行い、成績の悪い者は下のクラスに落ちます。ただし良い者は上のクラスに上がれます。毎日、生徒の入れ替えがあります」 「あの……質問よろしいですか?」 「はい」 「毎日生徒が変わるのでは、担任の先生は混乱しませんか?」 「大丈夫です。生徒は番号に寄って管理されています。生徒のデータは、番号とテストの成績だけですので、混乱はありません」 番号で管理……まさしく牢獄だ。 「それと、クラスによって待遇の違いがあるとおっしゃいましたが、どんなものですか?」 「はい。食事の時間、上のクラスほど食べられる食事の種類が増えます。最下位のクラスに至っては、パンと水くらいしかありません。さらに、椅子に座ることさえ許されず、床で食事をします」 「そ、そんな……」 まさしく、貴族と平民の違いだ。いや、王族と奴隷と言っていい。 「いい食事をしたければ、上に上がるしかないのです。それが実力主義です。ははは」 そんな理不尽な……と言いかけて、飲み込んだ。 もしかしたら、才人に対しても、おそらく同じことをしたのではなかったか。 理不尽を、何の疑問も持たずに才人にしようとしていたのか。 「ご覧下さい。ここが最上位のクラスの教室です」 教室はまるで、王宮の一室のようにきらびやかだった。 椅子、机、その他備品に至るまで、ピカピカに磨き上げられている。 生徒たちは張りつめた空気の中、教師の説明を聞き、ノートを取っていた。 その後、他のクラスの授業を見て回った。 魔法学院と変わらない作りの教室。これは成績中位のクラス。 下位のクラスに行くにつれ、教室のグレードが下がっていく。 「こ、これは……」 最下位のクラスを見て、ルイズは唖然となった。 机も椅子もボロボロ、生徒たちはやせ細り、まさしく囚人のようだ。 「ここに落ちたら、なかなか上がれません。そうならないために、誰もが必死なのです」 ただよってきた異臭がルイズの鼻をつく。糞尿の臭いだ。 「あ、あの……トイレは……」 「行かせませんよ」 「……!?」 「トイレには行かせませんが、衛生に関わりますので、教室の後ろの容器にさせます」 何ということを。 それは、人としての尊厳を奪うということだ。 「そ、そんなことをしたら、生徒の親が黙っていないのでは……」 生徒たちの親は、おそらく貴族のはず。平民ならともかく、貴族の子供にこんなやり方が許されるはずがない。 「大丈夫です。ここはいわゆる治外法権となっていまして、国の法律の制約を受けないのです」 「し、しかし、生徒たちは貴族なんでしょう? もし親が聞いたら……王家に報告したら……」 「ここは存在が極秘の上、箝口令が生徒や父兄に行き届いておりますので、情報漏れはありません」 どうにも信じられない。 「貴族も平民も関係なく、人生は戦いです。戦いに勝ち抜いていくためには、これが最良の教育なのです」 ルイズは唖然として声も出ない。 その時、鐘が鳴った。 「あ、休み時間ですね。このクラスにはありませんが」 「休み時間がないんですか?」 「そうです。落ちこぼれた者に、休みは必要ありません。食事と睡眠以外は休みはなしです。ではそろそろ行きましょう」 学院長に連れられ、ルイズは教室を後にした。 「ん? 君、今廊下を走りましたね」 学院長は、小走りしていた男子生徒を呼び止めた。 「あ、あのトイレに……」 「いけませんねえ、規則は守らなければ」 学院長は、廊下の脇にあった鉄棒を手に取った。 「……えいっ!!」 「ぎゃっ!!」 頭を鉄棒で殴られ、男子生徒は倒れた。頭から血が流れている。 「な、何を……!!」 ルイズは息をのんだ。 「あー、これは教育的指導です。ははは」 学院長は笑いながら答える。 「こ、これ、死んで……」 「不幸な事故というものです。心配しなくてもそれは美化委員が片付けますから。ははは」 倒れた生徒は動かない。明らかに死んでいる。 しばらくして、美化委員らしき生徒たちが、無表情のまま死体を運んでいった。 別の生徒たちが、黙々と廊下の掃除をしている。 もうルイズは言葉がなかった。 ルイズは学院長室に戻った。 「以上が、当学院の概要です。さて……」 学院長は一枚の書類を差し出す。 「あなたはすでに、特待生として、推薦入学の許可が降りています。こちらの書類にサインしてもらえれば、あなたはここの生徒になれますが……もちろん無理にとは言いません」 サインをすれば、入学できる。 でも、どうする? ここは明らかに異常だ。 貴族の子供をまるで囚人のように扱い、教育と言って殺すことも許される。 では、魔法学院に戻るか? しかし戻った所で、人殺しとなじられる毎日が待っているだろう。 そして、また『ゼロのルイズ』と嘲られる。 でもここなら、特待生として入学できる。もうゼロと呼ばれることはない。 学業の成績なら自信がある。成績が良ければ、少なくとも、まともな暮らしは保証されるのだ。 ルイズは決心した。 「わ……わかりました。私、ここの生徒になります! 正直言ってまだ……狐につままれたような気分ですが……気に入りました!」 「そうですか……わかりました。ではサインをどうぞ」 ルイズは渡されたペンで、書類にサインをした。 「おめでとう! 今日からあなたは当学院の生徒です」 「お世話になります!」 ルイズは頭を深々と下げた。 「……早速ですが……あなたは当学院の規則に違反しています」 「え?」 「ピンク色の髪、マントの長さ、杖の長さ、吊り目、胸の大きさ……その他諸々で……全部合わせた処罰は……」 学院長は一旦言葉を切る。 「『終身独房にて学習』、ですね。ははは」 「ご、ご冗談を……」 「冗談なんかではありませんよ。……入りなさい」 その時、学院長室のドアが開いた。 続いて、大柄な黒服の男が二人は言ってきた。 「な、何を……!!」 驚く間もなく、ルイズは両脇を掴まれてしまった。 「は、離しなさい!! こんなことをしてただで済むと思ってるの!? 私を誰だと……」 「だから言ったでしょう、ここは貴族も平民も関係ないのです」 ルイズは必死に暴れたが、男たちの力にはかなわない。 「は、離して!!」 抵抗空しく、地下室の独房に引きずられるように連れて行かれた。 「きゃっ!」 独房に放り込まれたルイズは、床に倒れた。 「や、やめて!!」 続いて鎖で手足、首までも繋がれる。 「な、なぜ!? なぜこんなことをするの!?」 「なぜだか教えてあげましょうか」 ついてきた学院長が、顔面に手をかける。 「バカ貴族のあなたには……」 学院長の顔面がはずれた。仮面を付けていたのだ。 「言っても無駄だからですよ」 現れた素顔は、ルイズがはずみで殺したはずの才人の顔だった。 「サイト!?」 学院長……才人が出て行った後、重い扉が音を立てて閉まった。 それから、連日……。 「なんだなんだ! ほとんど間違えているじゃないか!!」 「す、すみません……お腹がすいてて……」 「何度謝ったら気が済むんだ! 犬でももっとマシな物覚えだぞ!」 「ぐっ……」 「何だ、その目は! 反抗した罰として、鞭打ち30発!!」 「ぎゃああああああっ!! 痛い!! 痛い!! 許して下さいー!!」 その後……行方不明になったルイズは、結局見つかることはありませんでした。 使い魔を死なせたことを苦に逃亡したものと処理されましたが……皆さんはおわかりのはずです。 抜け出すチャンスがありながら、彼女はアウターゾーンから出られなくなってしまったことを……。 場面は日本へと移ります。 「あいててて……」 もうろうとする意識は、頭痛で次第にハッキリしてきた。 「……おっ、気がついたか。大丈夫か?」 誰かが呼ぶ声がする。 「! こ、ここはどこだ!?」 才人は弾かれるように起き上がる。すると、見慣れた景色が目に飛び込んできた。 周囲には人だかりができている。 「え? 秋葉原だけど……」 野次馬の一人が答えた。 「秋葉原? あの時俺は、召喚されて……」 あの時ルイズに暴行を受けて死んだはず……。 「君、悪い夢でも見てたのか? うなされてたよ」 「夢? じゃあ、あれは全部……夢だったのか? ……こ、これは……!」 腕には生々しい鞭の跡が残っている。ルイズにやられたものだ。それ以外は考えられない。 「一体……何があったんだ? 何がどうなったんだ?」 彼は死んではおらず、仮死状態になっていただけでした。 どうやら、それで彼はアウターゾーンから抜け出せたようですね。 さて、皆さんもハルケギニアへおいでの際は、トリステイン総合学院へ入学しませんか? ただし、厳しい教育方針ですのでそのつもりで! 前ページ次ページアウターゾーンZERO
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前ページ次ページ鰐男 「最近ロクな仕事がないねえ」 ウエストウッドの森から馬で二日ほどの距離にあるドナイスットシャーの町 町はずれのパブ「略奪された七人の花嫁亭」で土くれのフーケことマチルダ姐さんは 酒瓶相手にクダを巻いていた 「しょうがねえだろ、ここんとこの内戦騒ぎで景気がいいのは傭兵ばかり。 “まっとうな”裏稼業の人間はみんなアルビオンを見限って下に降りてるよ」 そうぼやくのはパブの主人でこの地方の裏稼業を仕切る顔役 通称「サイコロ」(本名は誰も知らない) 「お前さんもさっさと飛び降りたらどうだい、例のスケベ爺のところなら 尻でも撫でさせてやりゃあいつでもまた雇ってもらえんだろ?」 「こっちにも事情があるんだよ…」 むっつりと酒瓶に写った自分の顔と睨み合うマチルダ 確かにアルビオンに留まっていてもジリ貧だ だがいくら頼りがいのある鰐がいるとはいえいつウエストウッドも戦場になるか わからない状況で家を空ける踏ん切りがつかない そんなマチルダを尻目にサイコロは鬱憤晴らしとばかりに王党派貴族派平等に 罰当たりな言葉を吐いている 「まったくヤなご時勢だよ、レコン・キスタの連中こんな小娘まで懸賞金つけて 追い回してんだぜ」 店主が取り出した手配書を見て口に含んだワインを盛大に噴くマチルダ 大分ディフォルメされているが目に優しくない原色ピンクの髪と こまっしゃくれた顔付きは間違えようがない 半年前まで学院長秘書を勤めていた魔法学校の名物生徒だった 同時刻 レコン・キスタの拠点の一つエジンバラ城 「では乾杯」 テーブルを囲んで祝杯をあげるクロムウェルと幹部達とそしてワルド子爵 ワルドの隣りには簀巻きにされたうえ猿轡をかまされたルイズがいる 「まったく大騒ぎをしたのが馬鹿みたいだよ、トリスティンからの密使がこともあろうに わが方のスパイだったとは!」 おかしくてたまらないといった調子のクロムウェル じたばたともがくルイズはフライパンで炒られる蜂の幼虫のようだ 「ではワルド君、ご苦労だが明日にでも皇太子のもとに赴き 手紙を回収してきてくれたまえ」 「それはいいですが別行動をとった連中はどうなっているのですか?」 そう、このSSのルイズとワルドは才人達とはラ・ロシェールで別れているのだ 「心配無用。港という港、街道という街道にこちらの手のものが目を光らせている。 奇跡でも起こらない限り…」 「起こったんだなあその奇跡が」 自信たっぷりなクロムウエルの言葉を遮るどこかのほほんとした声 「お前は!?!」 いつの間にか中二階へと続く階段の踊り場にデルブリンガーを抜刀した才人、杖を構えた キュルケとタバサが並んでいる 「ふぁひほ(サイト)ッ!」 歓喜の叫びをあげるルイズ 目に涙まで浮かんでいる (ああ今なら言える、本当は私アンタのこと…) 「よおルイズ、新手のダイエットか?」 (やっぱり駄犬ッ!!) 「やはり生きていたか、それにしてもここまで追ってくるとはな…」 憎々しげに才人を睨みつけるワルド 対する才人はどこまでも人を喰った態度を崩さない 「まあ色々あったけど詳しく説明してたら夜が明けちまう、キュルケがいて助かった とだけ言っとくよ」 色仕掛けですね わかります 「さてそれじゃあ…」 才人はじつにさりげない動きでタバサの背後を取り白いうなじに デルブリンガーの切っ先を突きつける 「杖を捨てろ」 その場にいた誰もが何が起こったのか理解できなかった 「え~と、とりあえず起きたまま寝てるとか変な薬キメてるとかはないよな相棒?」 間抜けとしかいいようのない声を出すデルブリンガー 「ちょっと!これは一体どういう…」 再起動したキュルケの抗議を制するように才人の右腕が閃く 稲妻の速度で繰り出されたデルブリンガーの刃はタバサの着衣を切り裂き 新雪のように輝く肌に傷一つつけることなく少女を生まれたままの姿にしてしまう そして逆手に構えた魔剣の刀身を瑞々しい張りに満ちたタバサの両腿の付け根に 押し当て感情の抜け落ちた声で繰り返す 「捨てるんだ」 【続く】 ttp //kissho1.xii.jp/7/src/7jyou13837.bmp 前ページ次ページ鰐男
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前ページ次ページもう一人の『左手』 . 「なぜ知っているだと……? テメエ一体、さっきから何言ってやがるんだ」 じわりと声に殺気を込めて、平田がそのままカウンターから立ち上がり、風見ににじり寄る。それはまるで、猫科の大型肉食獣が威嚇するような迫力があった。 ――が、そんな見る者の目さえ背けさせるような圧力を、風見は無言のまま、弾き返すような鋭い眼光で睨み返している。口元の冷笑さえも、いまだ浮かべたままだ。 (――ちがう) 不意にフーケは気付いた。 この男は確かに、風見志郎だ。 顔と体格が同じというだけではない。そんな外見的特徴など、魔法を使えば、いくらでも似せられる。だが、そんなことでは、絶対に解決出来ない内面的特徴というものがある。 そういう意味では、この男は紛れもなく風見志郎本人だ。 この雰囲気、体臭、なにより余人には絶対に真似の出来ない、その氷のような眼差し――『土くれ』の名でトリステインを荒らし回った自分を、一睨みで『死』さえ予感させた鋭い眼光。……こんな目のできる男が、ハルケギニアに二人といるとは思えない。 だが……だが、違うのだ。 自分が知っている風見志郎と、この男は……明らかに違う。 どう違うと問われれば、上手く言語変換できないほどの違和感でしかないが、学院長秘書ミス・ロングビルとして、少なからず彼と接した記憶から照らし合わせ、それだけは断言できる。 ――この男は、自分が知る風見志郎とは、明らかに別人だ。 (どういうこと……!!?) フーケは混乱した。 結論から言えば、眼前の男は、風見志郎であって、風見志郎ではない。 そんな事がありえるだろうか!?? 「いいだろう……お前がその気なら、相手になってやろうじゃねえか……!!」 低い声でそう呟くと、平田は、その場で軽く腰を落とし、瞑目する。それと同時に、彼の全身を、吐き気を催すような緑色の霧が包んだ。そして、彼の殺気が、その煙の中で、歴然と変質してゆく。――妖気ともいうべき、おぞましの空気へ。 その不気味な煙の中から光る二つの光――それこそまさしく、フーケにも見覚えがある、改造人間カメバズーカの目であった。 「ほう……?」 平田の煙幕を見た途端、風見の口元からようやく笑みが消える。 そして彼は、平田の“変身”に呼応するように、自らの両腕を右横に流し、ポーズをとった。その瞬間、彼の腰に出現する変身ベルト――ダブルタイフーン。 「――おやめなさい!!」 二人の改造人間の間に割って入り、凛とした声を響かせたのは、さきほど紹介された黒いローブの女だった。 「このような愚劣な諍いは許しません!! どうしても続けたければ、私を殺してからになさい!!」 . ――風見は、やや驚いた表情をしていたが、やがてポーズを解き、苦笑しながら平田に背を向けると、無言でこの場を去っていった。 平田――カメバズーカも、緑の煙の中で無気味に光る瞳を閉じると、その数瞬後に消えた煙の中から現れたのは、……さっきまで不味そうに酒を飲んでいた、中年のおっさんだった。そして、そのまま彼も、部屋の外に姿を消した。 大した度胸だ。フーケは、女の胆力に思わず舌を巻いた。 あの二人が、もしその気になれば、女の細首一本など、文字通り一ひねりのはずだ。しかも二人ともに、他人の言葉に容易に従うような男たちではないはずなのに。 そういえば、フーケが知る風見と共に召喚された、才人という少年も、底抜けに向こう見ずなガキだった。 そこまで思い出して、あまりに明確な事実にフーケは気付く。 才人のルーンは、彼の左手の甲に刻まれている。それは伝説の使い魔“ガンダールヴ”のルーン。かつてフーケ自身が才人を拉致して、その能力を利用しようとしたから、それは確認済みだ。 だが、その情報を盗み聞きした時、オスマンのジジイはこうも言っていた。 才人と同時に召喚された風見にも、同じ箇所に、全く同じルーンがあると。――むしろ、その事実の方が、驚愕に価する、と。 しかし、いま見た風見志郎が、その身にルーンを刻んでいたのは、左手ではなく、額であった!! 「あなた」 不意に声をかけられて、反射的にフーケは振り向く。 「カザミシロウを知っているのね?」 その微妙に湿り気を帯びた声も、フーケは気にいらなかったが、それでも彼女は訊かずに入られなかった。 「あんたシェフィールド、とか言ったっけ? 一体全体これはどういう事なの……? あのカザミは一体何者なの……?」 フーケは、もはや恐る恐ると言った感じで尋ねるが、彼女は切れるような笑みを浮かべ、こう答えた。 「それは、あなたが知る必要のないことよ」 「こんなところにいたのか、ルイズ」 トリステイン船籍のマリーガラント号。そのデッキに、彼女はいた。 「ここは冷える。風邪を引いたら大変だから、なかに入りなさい」 そう優しく言うワルドに、ルイズはあいまいな笑みで答えた。 「だって子爵様、船の中は、いかにも汚くて……」 彼女はまだ、あまり元気も回復していないようだったが、それでもマシになった方だと言える。なにせ、往路のグリフォンでは、ロクに口も聞いてくれなかったからな。――そう、ワルドは胸中で呟く。 . 「まあ、客船じゃないんだ。そこはガマンするしかないよ」 「でも――汗臭い平民の船員たちが、大勢いるでしょう。それでつい……」 その瞬間、ワルドの眉間がピクリと震えたが、――目深に被った羽帽子のおかげで、彼女には気付かれなかったようだ。 「そうか……なら、仕方ない。ぼくも付き合うよ」 「あら、仕方無しなら、別に付き合って戴かなくて結構よ。子爵様」 ルイズは、ちょっぴり拗ねたような目を向ける。 「おっと、これは失言だったねレディ。ではもう一度」 ワルドは、片膝をつき、帽子を脱いで、うやうやしくルイズの手にキスを捧げた。 「我が麗しの婚約者よ、どうかこのわたしが、貴女の傍らに侍ることを許したまえ」 「もう―― 子爵様ったら……」 完成された美丈夫といった雰囲気を持つワルドが、こういう態度をとると、まるで一枚の絵画のようなカッコよさがある。さすがに、そういう大人の男のダンディな魅力にかけては、才人はワルドの足元にも及ばない。 (いやだわ、わたしったら……こんなときでも、またサイトのことなんか……) 思わずワルドから目を逸らし、ルイズは取り繕うように言った。 「ゆっ、許しますわ、子爵様……。どうぞ、お願いします」 「……ありがとう」 ワルドは再び、羽帽子を目深に被り、ルイズの傍に立った。 (汗臭い平民、か……) その顔色は、もはや帽子に隠れて見えなかった。 「ねえ、子爵様――」 「その、子爵様というのも、いい加減やめないかい? ルイズ」 「え? ――だって」 「さっきも言ったと思うけど、その他人行儀な口の利き方は、そろそろやめよう。ぼくらは、将来を誓い合った仲なんだから」 そう言われて、ルイズは反射的に俯いた。 「すいません子爵様……でも、その、……やっぱり、帰国したらすぐに結婚と言うのは、早すぎるような気がするんです……お父様にも意見を伺わなくてはいけないし、ですから……」 「そうか」 「……」 「分かった。――まだ当分時間はあるからね。ゆっくり考えてくれたまえ」 そう。――あせる必要はない。この少女を口説き落とす時間なら、まだまだたっぷり残っている。かつて王都で、プレイボーイの代名詞とまで言われた自分だ。こんな年端も行かぬ少女を惚れさせるなど、それこそ、赤子の手を捻るようなものだ。 しかし、同時にワルドも理解している。 いまルイズに、自分のプロポーズにためらわせている本当の理由は、彼女が口にした年齢や公爵の意向などではなく、使い魔である、あの少年の存在なのだという事が。 ――だが、手はすでに打ってある。 早晩、あの少年は間違いなくアルビオンにやってくるだろう。そのときに、改めて彼の自信を砕いてやればいい。自信を無くした男から女を奪うなど、やはり赤子の手を捻るよりも簡単だ。 ただ、問題はあの風見という男だ。奴がその時どう動くかは、流石のワルドと言えど予想しかねる (どっちのカザミも、手を焼かせやがる……!!) そんな思いはおくびにも出さず、ちらりとワルドは、困惑したような瞳で下を向く婚約者を見る。 俺はこの娘を手に入れる。 手に入れなければならないのだ。 そう心に誓う。 誓う相手は、勿論、ルイズでもなければブリミルごときでもない。 もうこの世にはいない、ワルドが心底から愛した、ただ一人の女性だ。 その女性を愛したからこそ、いまのワルドがある。 ――そしてワルドは、今の自分をとても誇りに思っていた。ルイズのような、ただの貴族娘とは違う女を愛した自分も。愛することによって、かつての自分と様変わりした、いまの自分も。 . 「ねえ、子爵様」 「――ん?」 「なんで、そんなにわたしとの結婚にこだわるの? だってわたしは、魔法もろくに使えない『ゼロ』なのよ」 自嘲するようにルイズは言う。 だが、彼女は知らない。周囲が『ゼロ』と嘲る、魔法失敗による怪現象が、一体何を意味しているか。――しかし、ワルドは知っていた。 彼女とその使い魔が『土くれのフーケ』を捕らえたと聞いた時に、彼はそれまで放置していた婚約者の情報を、徹底的に集め、吟味したのだ。 幸い、魔法学院には、同じく“風”のスクウェアたる旧友のギトーが奉職していたので、ルイズの情報を集めるのは簡単だった。退屈な教師生活に飽き飽きしていたギトーは、魔法衛士隊への再就職をほのめかすと、すぐに食いついてきたからだ。 そして、ギトーからもたらされる情報を分析した結果、結論は、おのずと明らかだった。 「ルイズ、きみは『ゼロ』なんかじゃない。いや、それどころか、きみには計り知れないほどの魔法の才能が眠っているはずだ。それはこのぼくが保障する」 「何を言ってるんです子爵様、わたしは――」 「聞くんだ、ルイズ」 ワルドは少女の顔を覗き込み、真摯な目線で語り始める。 きみの魔力によって起こる爆発は、確かに系統魔法では説明不可能な怪現象である。 しかし、かつて魔法学院の教師たちの中で、魔力の発現が爆発にいたるプロセスを解明した者がいるか? 誰もいやしない。それは彼らが無能だという事もあるが、それ以上に、説明の仕様がないからだ、と。 逆に考えれば、きみはおそらく、このハルケギニアで唯一、四つの系統で括りきれない魔法を操る事が出来る存在なのだ、と。 つまり、断じて、ただの失敗魔法などではないのだ、と。 その証拠に、きみは、サモン・サーヴァントで人間を召喚したではないか。普通、召喚の儀式は、使い魔が高等生物であればあるほど成功とされる。ならば、人類に勝る高等生物が、この世にいるか? いやしない。 これこそが、きみがただのメイジではない、何よりの証明である、と。 ワルドの話は、きわめて論理的だった。 だからこそ、その話は、文字通りルイズの魂を貫いた。 かつて、こんなに論旨明快に、自分が『ゼロ』であることを否定してくれた者は、どこにもいなかったからだ。 無論、系統魔法を使えないルイズを慰めてくれた者たちは、いた。 カトレアを始めとする、彼女の家族。そして、使い魔たる才人。 だが、家族の慰め方は、常に同じだった。今はともかく、いつかは魔法が使えるようになるでしょう。だから、諦めずに頑張りなさい。端的に言えば、そういう事だ。 才人にいたっては、この世界に於ける、“魔法の使えない貴族”がいかに惨めな存在かも分かっていない。――だからこそ、余人とは違う偏見のない目線で、彼女を見てくれる、ということなのだが、やはりそれでは、ルイズの心は完全に癒しきれない。 今は『ゼロ』であっても、いずれはなんとかなる、という家族。 『ゼロ』と呼ばれる事が、おまえの全人格を否定する材料になるのか? という才人。 だが、違うのだ。 ルイズが欲していたのは、自分が『ゼロ』ではない、と言ってくれる存在であり、そのことを論理的に証明してくれる者であったのだ。 無論、ワルドは自分が至った結論の全てを話したわけではない。 彼女が何者なのかなど、それこそルイズが召喚した使い魔たちのルーンを調べれば、バカでも分かる事なのだが、いまのワルドは、それを彼女に告げるつもりはない。ルイズを自分に惚れさせるためには、彼女の劣等感を残した方が、何かと便利だからだ。 しかし、ルイズに、そんなワルドの胸中は分からない。 ――やっぱり、わたしの本当の騎士(シュヴァリエ)は、この人なのかもしれない……。 ルイズは熱っぽい視線で、婚約者を見上げながら、何故かズキリと痛む心で、そう思った。 . 「――で、早速、その作戦とやらを聞こうか?」 ギーシュが鼻水を拭きながら、風見に言う。 上空数十mの高度を、滑るように飛行する風竜の背。 その寒気そのものと呼ぶべき薄い空気が、おそるべき風速の向かい風となって乗り手を襲う、ウィンドドラゴンによる高速飛行移動。……寒気忍び寄るこの季節に、それを初体験したギーシュは、ラ・ロシェールに降り立った時、さすがに鼻声になっていた。 「あわてるな。話はツェルプストーたちが帰って来てからだ」 風見は、振り向きもせず、ギーシュに告げる。 その口の利き方といい、どう考えても、平民が貴族に対する態度ではない。不遜そのものだ。 ――だが彼に、風見と面と向かって、その無礼を咎める度胸はなかった。 ギーシュは、その端正な顔をゆがめると、才人を振り向き、風見に聞こえぬように囁いた。 「なあサイト、あのカザミってのは、一体何者なんだ? 何であんなに偉そうなんだ?」 そう問われても、才人としては答えようもない。 「まあ、ナニモノって訊かれても……見た通りの人だとしか……ってか、そんな怒りをおれにぶつけられても、正直こまるんだが……」 「どういうことかね? きみと彼は、同じくルイズの使い魔だったんじゃないのかね?」 「だから言ってるじゃねえか、――見た通りの人だって、よ」 「そっ、それで説明しているつもりかね、きみぃぃっ!!」 ここは港町ラ・ロシェール。 タバサ、キュルケ、ギーシュ、そしてギーシュの使い魔ヴェルダンデを乗せたシルフィードは、一度この地で小休止を取っていた。 乗り手がタバサだけならば、単独でガリアまでの連続飛行すらこなすシルフィードだが、さすがに3人もの少年少女に加え、体重数百kgのジャイアントモールまで背に載せては、その状態で、学院からアルビオンまで直接飛べと言っても、出来ない相談だ。 それでも、学院から早馬で二日の距離にあるラ・ロシェールまで、たった半日ほどで辿り着けたのは、さすがにシルフィードと言わざるを得ない。 ――もっとも、当のシルフィードとしては、眼下の街道を、タンデムに才人を積んで爆走する、風見のハリケーンを、ついに引き離せなかった事の方が、悔しいらしかったが……。 「ただいま」 「ふう、行って来たわ」 タバサとキュルケが帰ってきた。 で、どうだった? と風見が訊く前に、キュルケは結論を口にする。 「――ダメね。ここからアルビオンに向かう便は、次はもう、いつになるか分からないってさ」 ギーシュが、ええっ!?っという表情をする。 港町からフネが出ないという事は、ここからアルビオンに向かうには当然――。 「つまり、またシルフィードの厄介になるしかないって事よ」 「そっか。……ごめんな、タバサ」 「わたしは構わない」 才人の謝罪に、タバサはこともなげに言う。 だが、こんな一文の得にもならない仕事で、他人の使い魔を酷使している事実は、才人にとっては、非常に申し訳ない状況でしかない。 「そうよサイト、どうせ謝るなら、ギーシュに謝った方がいいんじゃないの? これからまた、お寒い思いをさせちゃうけど、頑張ってガマンしてねって、ね?」 キュルケは、悪戯っぽい流し目でギーシュを振り返る。 そこには、やや狼狽したまま固まった、金髪の少年がいた。 「なっ、何を言ってるんだキュルケ!! 仮にもぼくは貴族の一員だぞ! 暑さ寒さでコーディネイトを変えるようなポリシーのない真似なんて――」 そう。彼の上着は、いつもの胸元が開いたフリルの薄手のシャツ一枚に、マントのみという、お世辞にも旅行向きとはいえない格好だった。 出立前に、あれほどみんなが注意したのに、彼は“ポリシー”の一言で、それを無視したのだ。 派手好きのキュルケですら、少しは厚手の野暮ったいコートを羽織っているというのに。 「おいギーシュ」 才人が、さっきのタバサに向けた目と180度真逆の冷たい視線で言う。 「おまえ、ここにいる間に、ちゃんと買っとけよ、防寒着」 . 「とりあえず、今晩はこの町で一泊しましょう。一秒でも早く熱いお風呂を浴びて、ワインでもやらなきゃ、ギーシュじゃないけど眠れそうにないわ」 キュルケが、そう言いながら宿場町――ラ・ロシェールは、一応港町なので、諸侯や太守クラスの大貴族が利用する官営旅館『本陣』が存在する――の方向に歩き出し、不意に振り向く。 「カザミ、宿ではちゃんと聞かせてもらえるんでしょうね? アルビオンに着いてからプランとやらは!?」 そう。すでに賽は投げられ、矢は放たれた。 才人は、この場の誰よりも心配そうな目で、風見を見る。 聞いた話では、ワルドは『成算はある』と風見に告げたようだが、いまや、そのワルドは一行の中にはいない。いない以上、風見が述べた任務遂行上の問題点――それらを全て、独力で解決しなければならないということだ。 制空権を握られた、アルビオンへの空路。 数万の大軍勢が包囲する、ニューカッスル城塞への潜入。 城塞への潜入後、トリステインの正式大使を名乗り、返還交渉に及ばねばならない王女の“手紙”。 ちなみに、王女の私的な隠密行動であるため、自分たちが正式な“大使”である事を保障する公式書類は、一枚も用意されてはいない。万が一、事が露見した場合を考えて、アンリエッタは極力、証拠は残さないようにしたいのだろう。 ……風見は一体、こんなムチャクチャな任務に、どうやって活路を見出そうと言うのだろう。そもそもワルド子爵は、本当に成算などあったのだろうか? いや、不安要素はさらにまだ存在する。 レコン・キスタが“増援”として送り出したという、もう一人の改造人間カメバズーカこと平田拓馬……!! 考えるほどに、才人は、これからの旅程のおぞましさに、背筋が寒くなる。 だが……ルイズはもう、今頃アルビオンに着いているであろう。その傍らに自分がいない。そう思うと、自分たちを待ち受ける困難の、さらに数百倍の後悔と不安が、才人を苛むのだ。 一刻も早く、ルイズと合流せねばならない。後の事はそれから考えればいい。本音を言えば、こんなところで、ぐずぐず一泊している暇さえ才人には惜しいのだ。 そして風見は、隣を歩く才人の焦燥など、全く知らぬ者のように、確かな声でキュルケに応える。 「ああ、安心しろ。確実なプランはすでに――」 そう言って、風見は自分の眉間をちょんちょんと突付くと、 「ここにある」 「大丈夫さ、ルイズ。君はぼくに全てを任せていればいいんだ」 昨夜、風見が洩らした任務遂行上の問題点。 さすがのルイズも、今になって少しは不安になってきたらしい。 が、そんな少女の不安を物ともしない、太い声で、子爵は微笑む。 「ちゃんと、確実なプランは、――ここにあるからね」 誇らしげに、ワルドは、自分の羽帽子を突付く。――同時刻に、ラ・ロシェールで風見が全く同じ台詞を、全く同じポーズで言ったと知ったなら、彼は思わず失笑するだろうが。 だが、ワルドと風見では、プランの内容は全く異なる。 そもそもプランも何も、レコン・キスタの大幹部たる顔を持つワルドにとって、たとえ何万の軍がニューカッスルを囲んでいたとしても、全く関係のないことなのだ。 何故なら、城塞を包囲する貴族派の母体となった組織こそが、レコン・キスタという反王制思想組織なのだから。つまり彼にとっては、アルビオンを埋め尽くす包囲軍は、敵ではなく味方に過ぎないのだ。 当然、彼の懐には、レコン・キスタ最高司令官クロムウェルの書付が眠っている。 これを使えば、道中の不安どころか、道行く貴族派は、逆に、護衛すらつけようと言い出しかねない。勿論、そこまでの好意は、自分がスパイである事を喧伝しているようなものなので、受諾する気はないが。 . アルビオンが見えてきた。 隣の少女には見えなかっただろうが、グリフォンでの長距離飛行に慣れたワルドの、鍛えられた視力には見えた。その空中にポツンと浮かぶ白い“石ころ”が。 白く見えるのは、視覚的に月光に反射するのが、大陸の下半分を包む霧の部分だけだからだ。 これが昼間ならば、下半分の白霧に加え、今は夜空に隠された、上半分の黒々とした山塊という、白黒まだらの見事な“石ころ”が、青空をバックにとても美しく展開するであろう。 その“石ころ”が、本来の浮遊大陸と呼ぶに相応しい巨大さを、見る者に意識させるには、まだかなりの距離と時間がかかるであろう。――おそらく夜明け頃まで。 だがワルドは、いまの遠目に見えるアルビオンの眺め――空中にポツンと、寂しげに佇む、孤独な“石ころ”の眺めが、たまらなく好きであった。 (あの者に一度、見せてやりたかった) ズキリとした胸の痛みと共に、ある女の顔が浮かぶ。 彼がまだ、グリフォン隊の平隊士だった頃。 王都で、“メイジの花形”魔法衛士の名を辱めぬ程度の女遊びに励んでいた、あの当時。 勿論ただでさえワルドは女にもてた。 そんな彼が魔法衛士隊の名を出せば、口説けぬ女などいなかった、と言っていい。 そんな中、出会ってしまった一人の女。 彼の行きつけのカフェの斜向かいにある、花屋の娘。 貴族娘のように、驕慢でも横暴でも自侭でもなく、あくまでその場で咲き続ける事を本貫とする、路傍の花。その美しさを必要以上に訴える事すらない、ささやかで、それ以上に淑やかな花。 それでいて明るく、元気で、傍にいる者――いや傍どころか――斜向かいの店から彼女を見ているワルドさえ、ホッとさせるような、あたたかな空気の持ち主。 歴とした子爵位を継いでいるワルドにとって、そんな町娘など、釣り合おうはずもない。それどころか、彼は、その娘に話し掛けた事さえなかった。無論、その娘が話し掛けてくる事も。彼は貴族で、何より彼女は平民だったから。 そして、ある日、彼女は唐突に、――死んだ。 道行く貴族の馬車を遮ったという理由で、“無礼討ち”として、真っ昼間の公衆の面前で、焼き殺されてしまったのだ。 カフェの親父から、その事を聞かされた時、ワルドは呆然と立ち尽くした。 彼は泣く事さえ出来なかった。敬愛していた母の訃報の聞いた時の、さらに数倍の衝撃に、心を攪拌されていたからだ。その、あまりに大き過ぎる衝撃に、彼の心は、その感情をどう表現すべきか、分からなくなってしまっていたのだ。 そして、ワルドは不意に知った。 自分は、彼女を愛していたのだ、と。 しかし、――それでも、彼の心は『慟哭する』という表現解答を、見出せなかった。 そして、その日から、ワルドは泣けなくなった。 ワルドは今でも忘れてはいない。彼女の弔問に、花を持っていった時の、突き刺さるような遺族の、いや遺族を含む、すべての平民たちの視線を。 無論、彼女を殺した貴族はワルドではないし、それどころか、その場に自分がいれば、むざむざ彼女を殺させる事もなかったであろう。 しかし、彼女が平民であり、貴族に平民を殺す権利がある以上、今この瞬間にも、彼女と同じ、非業の死を遂げている平民たちがいることも間違いないのだ。そして、貴族の権利を始祖が保障しているなら……神がいる以上、平民たちは救われない事になる。 . ワルドは、気付いてしまったのだ。世界の大いなる矛盾に。 万民の幸福を保障すべき、神と始祖が、同じ理屈で、他者の幸福を蹂躙している事実に。 そして彼は、復讐を誓った。神と始祖と王家を頂点とする、社会の全てに対して。 口すら利かず、名すら知らぬ、自分がただ一人愛した、平民の少女のために。 ワルドは、その日から変わった。 魔法衛士隊のたしなみとも言われた女遊びも、スッパリと足を洗い、ひたすら魔法の勉強と戦闘訓練、そして幻獣調教の腕を上げることに励んだ。 彼の頭を支配していたのはただ一つ、――出世してやる、という一事だった。 ただひたすらに、王よりも、始祖よりも、神よりも偉くなり、全てをこの手で創り変えてやる。 それが俺の、この世に対する復讐なのだ、と。 そのためだけに、ひたすら謹厳実直に隊務を勤め、そして彼はグリフォン隊の隊長にまでなった。 これまで以上に礼儀正しく、そして平民たちには容赦しなくなった。平民どもに媚びている、という悪評は、出世の足を恐ろしく引っ張る事を知っていたからだ。 ルイズとの結婚を、いまさら強く望むのも、出世のためだ。 長女エレオノールの悪名は、貴族サロンに轟き渡っている。いまさら彼女と結婚を前提に交際しようと考える男など、まずいまい。次女カトレアに至っては死病に取り憑かれ、あと数年で死に至るだろう。 何よりルイズの属性が、彼の予想通り“虚無”であるならば、『虚無の担い手』の夫として、公爵家を継ぐ事さえ、決して夢ではない。 そして、レコン・キスタという組織を知り、加盟を果たし、今では幹部格の扱いすら受けている。幹部格、どころではない。いまやトリステインにおける貴族派の、事実上の束ね役といっても過言ではないだろう。 彼らの提唱する『共和制』という概念には、確かに魅力を感じる。 『王家』を固定せず、一国を束ねるに足る能力を持った貴族を、議会“貴族院”が選び、国王に任命する。 任期は終身。だが世襲権はなく、王の息子が王位を継ぐのは、王位を継ぐに足る器量の所有者と、議会が認めたときのみ。……真に優れた王のみを選ばんとするシステムだ。 だがいずれ、その精神は失われ、所詮は王家に取って変わりたいだけの俗物が覇を競う、愚劣なパワーゲームの場になってゆくはずだ。そして、司令官クロムウェルや、他の大貴族どもが、小賢しい俗物に過ぎないことを彼は知っている。 しかし、彼ほどの才覚者が、公爵家の爵位と領地と兵力を継ぎ、『虚無の担い手』ルイズを妻としたならば、――俗物ひしめく貴族派内でワルドに逆らえる者は、すぐにいなくなるだろう。 ならば、最終的にハルケギニアを、この手に握る事さえ、決して出来ない相談ではない。 ワルドは、傍らの少女を優しげな眼差しで見下ろした。 自分の野望のためとは言え、こんな、いたいけな少女に犠牲を強要する事に、まるで胸が痛まないと言えば、いくら何でも、それは嘘だ。 思えば、不憫な娘だ。――ワルドはそう思う。 生まれてこの方、魔法が使えないことを周囲にひたすらバカにされ、その挙げ句、ようやく心を通じ合わせた少年とは、生木を裂くように引き離され、この自分に愛のない結婚を選ばされようとしている。 だから、――せめて、この俺に惚れさせてやる。 強制的に俺を選ばされたのではなく、俺に惚れて、せめて自分から俺を選んだ、というかたちにしてやる。そのためならば、俺はいくらでも優しくなろう。どんな事でもしてやろう。 そう思う。 だが、――心までは、くれてやるつもりはない。 俺の心はお前の物ではない。 そして当然、俺の物ですらない。 俺の心を所有できるのは、所有者の名乗りをあげられるのは、ただ一人、名すら知らぬ、あの少女だけなのだから。 その時、鐘楼に登った見張りの船員が叫んだ。 「右舷上方の雲中より、フネが接近してきまぁすっ!!」 なるほど、確かに一隻のフネが、ゆらゆらと近付いてくる。 それを見てルイズは、 「いやだわ……反乱軍のフネかしら」 そう、眉をしかめた。 ならば、逆にこっちとしても、手間が省けるな。 ワルドは胸の内で呟いた。 だが、彼は知らなかった。 ワルドに取っては致命的なことに、……そのフネが、空賊を装った、王党派の私掠船であることを。 前ページ次ページもう一人の『左手』
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星屑「メイジの実力を見るには使い魔を見ろだなんてよく言ったものよね、フフン」 Dio「ふーん、まあ私の使い魔には敵わないわね、黒髪の使い魔なんていかにも平民じゃないの」 パーティ「ななな何ですって!こっちは二人も召還したのよ!」 鉄「それはいいけど、どこの世界も使い魔自慢ばかりよね、まあ私の使い魔も接近戦じゃ無敵よね」 変帽「帽子帽子帽子帽子帽子帽子帽子帽子帽子帽子…ブツブツ…」 ファイト「あーあ、まともな人間なだけマシじゃない、私なんて…どこ行ったのよアイツ…」 奇妙「…ズルズル、グビッ パラッ」 兄貴「あ、ありのままに今起こったことを話すわ、目の前のルイズが四本の手で本のページを捲りながらジュースを飲みながらお菓子を摘んでるッ」 サブ「ギアッチョの仲間も召喚されてるのね…ちょっと安心したかな」 ヘビー「私の見せ場はこれからよ!」 マジシャン「使い魔の見せ場じゃない、私も人のこと言えないけど」 仮面「………使い魔いない」
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第八十三話 ネフテスの青い石 怪魚超獣 ガラン 高原竜 ヒドラ 友好巨鳥 リドリアス 登場! 「サイト!」 「言っただろ、おれが守ってやるってな!」 ティファニアの危機にさっそうと駆けつけた才人は、ガッツブラスターを構えながら不敵に笑ってかっこうをつけた。 もっとも、才人も落盤のときに大量の粉塵を浴びたと見えて、顔からパーカーまで真っ黒にすすけている。せっかくのところで 悪いけれども、これでは炭鉱の工夫みたいでルクシャナは失笑したが、それでも撃たれた傷を押さえながら、ティファニアは 表情を輝かせた。 それに、瓦礫ごしにルイズも現れて、ポーズをとっている才人の頭を杖で軽くこづいた。 「なあに、似合いもしないヒーローぶってるのよ。閉じ込められたときに、『やべえよ真っ暗だよ』とかうろたえてた奴のセリフ?」 「ちぇっ、お前がつまづいたおかげで逃げ遅れたくせによく言うぜ。けど、そっちが魔法の明かりを照らしてくれたおかげで助かった。 まさしく怪我の”光明”ってやつだな。おい! そこの金髪の長耳野郎! もうテファたちに手出しはできねえぞ。降参して武器を捨てろ!」 「おのれ、まだ悪魔のかたわれがまだ残っていたか! いったい、なんの悪魔の術を使った!?」 「術じゃねえよ、こいつは科学っつうんだ。それに、こいつは人を救うための力だ、悪魔なんかじゃねえよ」 怒鳴るファーティマに向けて、才人は誇りを込めて断固として言い放った。 才人の手にあるガッツブラスターの先端には、青い色をしたアタッチメントパーツが取り付けられていた。一度リュウ隊長の 手に渡されて地球に送られたこの銃は、モロボシ・ダンによって再び才人の手に返された。その際、CREW GUYS仕様に いくつかの改造が施されていて、アタッチメントパーツを付け替えることによって、トライガーショットと同じように超絶科学兵器 メテオールを使用することができるようになっていたのだ。 そのひとつが、今ティファニアたちを助けたメテオール・キャプチャーキューブである。メテオールの代表かつ基本といえる 装備で、照射部に一分間限定の簡易バリアーを発生させて、外部からの衝撃から身を守ったり、逆に内部に敵を閉じ込めたり することもできる。 「黙れ、悪魔の戯言など聞く耳はもたん」 才人の言葉に激昂したファーティマは、銃口を才人たちに向けた。しかし、一瞬前に才人は二発目の引き金を引いていて、 今度はファーティマがバリヤーに閉じ込められてしまった。 「おのれっ! 出せっ! 出さないかっ!」 「無駄だよ。そのバリヤーはちょっとやそっとじゃ破れねえ。少しその中で頭を冷やしやがれ」 キャプチャーキューブは簡易ながら、その強度は見た目よりはるかに強い。並の怪獣の攻撃が通じないのはもちろんのこと、 暗黒四天王のひとりデスレムの火炎弾『デスレムインフェルノ』も軽く跳ね返してしまった。これを内側から破るなら、 無双鉄神インペライザー級の大火力が必要とされる。 才人は、ファーティマが無害化すると瓦礫を駆け下りてティファニアとルクシャナのもとに向かった。ちょうど、そちらの キャプチャーキューブは時間が過ぎてバリヤーが消え、二人も中から出てきて駆け寄ってきた。 「テファ、大丈夫か? 怪我してんだろ」 「大丈夫、かすっただけだから。それよりもありがとう、助けに来てくれたんだね」 「え? へへ、まあなっ! おれは約束は破らない。特にテファとのだったらなおさらさ!」 天使の笑顔で擦り寄ってくるティファニアに、才人は照れながら胸を張った。もっとも、その後すぐにルイズに耳を引っ張られてしまったが。 「あんた、そのにやけた顔は何? わたしと閉じ込められたときは気にも留めずにひとりで慌ててたくせに、説明してもらえるかしら」 「あいててて! こ、これは、ルイズの顔はもう見慣れているがゆえの新鮮な反応というかなんというか。と、ともかく二人とも 無事でよかったよかった! いてててっ!」 才人は無理矢理ごまかした。だって、ルイズは力強すぎて心配なんてできないんだもの。それに、「自分以外の女を見るな!」というのは 女が惚れた男に対する自然な反応だとしても、ルイズの嫉妬ぶかさは相変わらずひどい。少しは自覚してほしいと才人は思った。 「くすっ、サイトとルイズって、ほんとに仲がいいのね」 「お、おいっ! これが仲よさそうに見えるのかテファ!?」 「うん、だって心配する必要がないほど信頼しあってるってことなんでしょ。いいなあ、わたしもそんなふうに思われてみたいよ」 まったく疑うことをしない天使の笑顔が才人に向けられた。才人からしたら、よくまあそこまで人をよい方向に見られると思う。 純真というか、人間のよいところを素直に見られているというか、ティファニアほど人を澄んだ目で見られる子はそういないだろう。 人は成長していくにつれて疑り深く、心が濁っていくものだから、ティファニアの純真さはとても貴重に思えた。 と、そこで無視されていたルクシャナがルイズの手を放させた。 「はいはい、そこまでにしときなさいあなたたち」 「いてて……わり、助かったぜ」 「どうでもいいわよそんなこと。ま、助けてもらえたっていうならわたしのほうこそだから、今のうちに一応礼は言っておくわ。 それよりも、どうやってここから出るかを考えましょう」 「あら? それなら心配いらないわよ」 こともなげに言ってのけたルイズに、才人とルクシャナは怪訝な顔を向けた。 「はあ、あなたたちわたしが虚無の担い手だってこと忘れてんじゃないでしょうね。さすがに外に出るのは無理だけど、 この程度の岩壁ならどってことないわ」 「そうか! テレポートがあったな」 合点がいった才人はぽんと手を叩いてうなづいた。ルクシャナも、話には聞いていた瞬間移動魔法の名前を思い出して、 なるほど虚無が悪魔の業と恐れられるのも道理ねと、口には出さずに納得し、ティファニアは両手を叩いてうれしがった。 「すごい! ルイズさんって、そんな魔法も使えるんですか」 「ふふん、そのとーり。レビテーションとかフライとかなんて比べ物にならないわ、なんたって一瞬であっちからこっちまで 行けるんだもの。ま、こんなことができるのも、この超絶天才美少女メイジ、ルイズさまだからこそよね。そうでしょサイト?」 「はいっ、そのとおりでありますっ!」 「ほーっほーっほっほ!」 今わめいたカラスがもうカナリアになったと才人は思った。ほめられればすぐ頭に乗るというか、感情の起伏が大きくて ノリがいい。人によっては疲れる性格だと思うかもしれないが、才人はそうでないルイズはルイズでないとも思うのであった。 「それじゃ、善は急げでさっさと脱出しましょうよ」 「待って、あの人を置いていくわけにはいかないわ」 すぐに脱出しようと急かすルクシャナを、ティファニアが止めた。彼女は、ファーティマをここに残しておくわけにはいかないと言う。 見ると、キャプチャーキューブの時間が切れ、ファーティマは床に倒れこんでいた。どうやら、見た目以上に深い傷を負っていたらしい。 しかし、それでも一丁だけ残った銃を手放さず、ファーティマはティファニアを撃とうと腕を震わせている。そんな彼女の鬼気迫る 姿に、自分も殺されかけていたルクシャナは憤然として言い放った。 「いいわよそんな奴置いていきましょう。どうせ死んだって自業自得よ」 「そんな! それは、いくらなんでもかわいそうですよ」 「あなた、自分が殺されかけたってのにお人よしがすぎるわよ。見なさい、助けたって、そいつはまたわたしたちを殺しに来るわ。 あなたは知らないだろうけど、鉄血団結党っていって蛮人嫌いの狂信者集団の仲間なのよそいつは。ここで始末しておかないと、 あなたの仲間も命を狙われるわ。苦しませるのが嫌だっていうなら、一思いにここで撃ち殺してあげなさい」 話の通じる相手ではないと、ルクシャナは才人にとどめをうながした。 才人は、ガッツブラスターを睨んで考える。確かに、この女は命を助けても、その恩をあだで返しに来るだろう。そのせいで、 自分はともかくティファニアやギーシュたちに危害が及んだら取り返しがつかない。 しかし、正しい道理が正しい答えにつながるとは限らないことを、才人も多くの経験から学んでいた。 血の気を失って蒼白になり、それでも取り憑かれたように銃口を上げようとするファーティマは、まさに狂信者と呼ぶにふさわしい。 が、命は命……それに、すがるようなティファニアのまなざしが才人を決断させた。 「連れて帰ろう。敵とはいえ、こいつにも死んで悲しむ奴がいるかもしれねえ」 「……甘いわね、あなたはまだ狂信者というものがわかってないわ」 「だろうな……だが、おれはこの銃で人殺しはしたくない。まあ、なるようになるさ。ルイズ、デルフを頼む」 悪いほうに考えてもしょうがないと、才人は楽天的に言ってのけた。背中に背負っていたデルフリンガーをルイズに渡し、 ファーティマの持っていた銃を蹴り飛ばして、彼女を背中に背負った。 「はな、せ……汚らしい、ばん、じんめ……」 「はいはい、蛮人でもゴリラでも好きなように呼べ。おれも本当はてめえなんか助けたくはねえが、テファがどうしてもっていうから 仕方なく助けるんだ。ありがたく思ったほうがいいぜ」 「誰が……貴様らのような、サハラを汚すゴミは……われ、らが」 「勝手に来たのは悪いと思ってる。けどな、だからといってゴキブリみたいに片付けられるほど悪いことしたとは思えねえぜ。 てめえが自分らをどれだけ偉い種族だと思ってるか知らねえけど、ちっとは自分の背中を見つめてみやがれ。それでなんにも 思わないとしたら、てめえは見てくれがいいだけのただのバカ野郎だ」 肩越しにファーティマの顔を見て才人は怒鳴った。そのとき、才人はなぜか自然と言葉を荒げてしまったことに気づいた。 ティファニアを殺されかけたことか、差別主義の狂信者への不快感か、そういったものもあるだろうが、なにか別なことで この女には気に障るものがある。 見てくれがいいだけの……そういえば、才人はちらりとティファニアを見た。彼女はどんどん衰弱の進んでいくファーティマを 心配そうに見つめていた。 「がんばって、船に戻ったらすぐに治療しますから」 「うるさい……」 才人の視界の中でティファニアとファーティマの輪郭が重なる。違和感の正体がわかった、 ”そうか、こいつはテファと似てるんだ” 偶然だろうかと才人は思う。昔、日本人には外国人の顔が全部同じに見えると聞いたことがあるが、その類がエルフに 適応されているのだろうか? いや、でもハルケギニアに来たときにルイズたちの顔はちゃんと見分けられたから、それはないか。 とすると、もしかしたら…… そこまで考えたとき、再び大きな地鳴りがして天井からパラパラと石が落ちてきた。 「早く! 次に大きなのが来たら、もう持たないわよ」 「ええ! サイト、テファ、すぐに跳ぶわよ」 三人を自分のそばに集めて、ルイズは虚無の呪文を唱え始めた。『テレポート』の魔法が完成すると同時に、五人の姿は 掻き消えて、次の瞬間残った部屋は瓦礫に埋め尽くされた。 そして、すでに瓦礫にうずもれている山の前にルイズたちが現れると、待っていたエレオノールたちからわっと囲まれた。 「あっ! ルイズ、あなたたち! 無事だったの。そうか、虚無の魔法を使ったのね」 「ええ、運がよかったのか悪かったのか。姉さま、ほかのみんなは無事ですか?」 「うん、我々のほうには幸いながら行方不明はいないわ。水精霊騎士隊の半分はテュリューク殿といっしょに先に帰ったわよ」 この場に残っていたのは、土魔法で掘削をおこなおうとしていたエレオノールのほか、ギーシュたち十名ほどの水精霊騎士隊と ビダーシャルと、ルクシャナの婚約者のアリィーと数名の騎士だけだった。彼らは、目の前にひょっこりとルイズたちが現れたので 驚き喜んだ。 無事でよかった。心配した、この馬鹿ヤロウと、親しみを込めてもみくちゃにされる。アリィーは、ルクシャナに心配かけさせるなと 言ってはつれない態度をとられてしょげているが、そんななかでビダーシャルがルイズに無表情のままながら礼を言った。 「わたしの姪がまた世話になったようだな。つくづく、迷惑をかけて申し訳ない……ところで、エルフの騎士たちの何名かが まだ行方不明なのだが、知らないか」 ルイズは、言ってもいいかと悩んだが、ファーティマたち鉄血団結党に襲われたことを伝えた。もっとも、襲われたときには ファーティマ以外は全滅し、そのファーティマも虫の息なのだが。 「そうか、あの男の走狗が潜り込んでいたとはうかつだった。彼は努力家なのだが、どうにも自己愛が過ぎる男でな。我々も、 お前たちを笑えないのが最近よくわかってきた。それにしても、自分たちを殺そうとした相手を、よく救ったな」 「この女の始末は、あとでテュリューク統領にゆだねるわ。あなたたちの犯罪者をわたしたちが勝手に裁く道理はない…… あなたたちの同胞の不幸には、つつしんで哀悼の意を表します」 淡々と告げたルイズに、ビダーシャルは内心でほんとうに蛮人たちを笑えんなと思った。いったい、より優れているとは なんなんだろうか? 有無を言わさず暴力で話し合いに来た使者を排除しようとした同胞と、その相手に報復せずに あくまで紳士的に対応した蛮人……さて、どちらが蛮人と呼ぶにふさわしいものか。 「了解した。その者の処分は、空軍の軍法によって裁かれるだろう」 「寛大な処置をお願いすると、お伝え願いたいわ。それと、あなたたちの魔法で彼女の治療はできないの?」 「重傷だな。できないことはないが、ここは地の底すぎて精霊の加護が期待できんから効果は薄まる。急いで船に戻れ、 専用の医療設備がそろっている」 「よし、そうとなったら急ごうぜ!」 どっちみち、こんな場所で治して暴れられでもしたらなお面倒になる。意識を失っているなら、かえって都合がいい。 だがそのとき、帰り道を見ていたギムリが愕然とした声で叫んだ。 「大変だ! 水が溢れてきてる。この遺跡、水没しちまうぞ!」 「ちっ! みんな、走れ!」 この大人数ではテレポートで連れ出すこともできない。となれば、あとは親からもらった二本の足で駆けるしかない! しかし、才人たちが地上に向かって長い道のりを駆けているあいだにも、東方号は大きな危機に瀕していた。 「副長! いえ艦長代理! 一番および三番の水蒸気圧力が上がりません。これでは、エンジンは半分しか動かすことができませんよ!」 「かまわん! 残った二基だけでも飛ぶだけならできる。いいから回せ、超獣はもうすぐそこまで来てるんだぞ」 超獣ガランの襲撃を受けている東方号では、ミシェルたち銃士隊が必死になって東方号を動かそうと奮闘していた。 現在、東方号に残っている人数はたったの三十人。最小限度もいいところで、蒸気釜に石炭をくべる人数も、圧力を 調整する人数も全然足りず、まるで、クジラに手綱をつけて操ろうとしているにも似た苦闘だった。おまけに、飛ばす要である 重力制御機構はエレオノールでないと理解できず、念のため作ってあったマニュアル本を読みながらなのでうまく稼動しない。 「くそっ! やっぱりミス・エレオノールだけでも残っていてもらうんだった。わたしたちだけじゃとても手が足りん! こんなことならスキュラでも隊員にしておけばよかった!」 「おや副長? 酒場で酔ってからんできた男を十人まとめて叩きのめした人とは思えないセリフですね。ちなみに言っておきますけど、 スキュラで多いのは手じゃなくて足ですよ」 「そうですよ。それに亜人は絶世の美女が多いって言いますからね。そんなのを入れておいて、サイトが誘惑されたら大変じゃないですか」 「なんだとお前たち! わたしがタコ人魚にも劣るって言いたいのか!」 「あら? 誰も副長のことだなんて言ってませんわよねー?」 「ねー?」 「うぬぬぬぬ……」 死期が確実に迫っている中でも、冗談が飛び交って笑いが耐えない今の銃士隊は、明らかにまともな軍隊ではなかった。けれども、 達者な口が性質の悪いジョークをつむぎだしながらでも、彼女たちの手は最大限の仕事をこなしていたあたり、まともな軍人では なくとも超一級の戦士である証であるといえよう。 東方号の左右二基、計四基のエンジンのうち左右一基ずつが回転を始める。出力的には心もとないが、離陸するには これでも十分である。 しかし、慣性の法則に従い、静止している巨大な質量を持つ物体が動き出すためには、それなりの時間をかけて加速度を つける必要があった。重力制御で急加速をかけることも一応は可能だが、銃士隊の予備要員ではそこまで緻密な操作ができないし、 下手をすれば船内の人間が急激なGに耐えられずに押しつぶされてしまうだろう。 あと一分時間があればっ! あと五十メイルにまで超獣が迫ったとき、運は東方号に味方した。 「化け物めっ! 撃てっ、撃てーっ!」 それまで無視されていたテュリューク統領の乗艦の砲手が、狂乱してガランの背中に向かって大砲を放たせたのだ。 ガランの背部で爆発が起こり、砲手が万歳の声を上げた。しかし、エルフの大砲の威力は人間のものを大きく上回るとはいえ、 ミサイルさえ跳ね返すガランのうろこにとってはペン先でつつかれたようなものであった。砲煙の晴れた後にはかすり傷ひとつなく、 攻撃を受けたらただちに報復する凶暴性をただ目覚めさせてしまっただけの結果に終わった。 「まだだ! 続けて撃て、いまのはまぐれに決まってる!」 この船の砲手は竜の巣での戦いには参戦せず、またディノゾールをはじめとする来襲怪獣たちとの戦闘経験もない召集兵 だったことが災いした。経験ある優秀な砲主は、新式の戦艦のほうに取られて実質戦闘艦ではない統領艦には二線級以下の 者が回されるのは合理性からして正しいが、彼らはそれをよしとせずに、なおかつ超獣をなめていた。 攻撃されたことに怒るガランの尻尾が統領艦を打ち据えた。魚の尾びれそっくりな尻尾の羽はダンプカー一千台分のパワーを 発揮して、ただの一撃で木造船に装甲を張っただけの船は半壊し、つながれていた竜たちが慌てふためいて逃げていく。 「あ、ひ……」 「馬鹿者! 誰が撃てと命令した。ちっ、早く退艦しろ、この船はもう駄目だ!」 そこでこの船の指揮官代行の士官が命令しなければ、無知な砲手たちはほかの乗組員たちとともに全滅していたに違いない。 彼らの船は超獣の一撃で船としては死んでいたものの、まだ哀れなクルーたちを冥界の門から遠ざける壁としてはわずかに 機能していた。横転しかかり、ひしゃげた船体の反対側へと彼らは走る。 そこへ怒る超獣の第二波攻撃が襲い掛かってきた。超獣ガランは元々は古代魚類が改造されたものであるので、体つきは 魚のシルエットを色濃く残している。海中を、時速三百ノットで泳ぐことができる能力を有していることからも、どちらかといえば 水中戦のほうが得意で、砂漠の地下水脈を縦横に移動して東方号を人知れず追ってきた。しかし、超獣と化した今では 地上でも問題なく戦うことができ、うちわのように異常に大型化した手で統領艦はあっという間に破壊されてしまった。 「ああ、俺たちの船が」 だが、今は命が助かったことのほうを喜ぶべきであろう。彼らの目の前で、船は子供の手にかかる積み木細工のように 原型を失っていくが、とりあえず命だけは助かることができた。そこへ、テュリューク統領らが地下から戻ってきて、彼らは 自らの不手際をわびた。 「申し訳ありません統領閣下。貴重な船を、みすみす……」 「いや、かまわぬ。そなたらが無事だっただけでもなによりじゃ。それよりも、彼奴はもう一隻の船をも狙っておる。彼奴の 気を引いて、時間を稼ぐのじゃ」 「っ!? 蛮人の船を守れとおっしゃられるのですか?」 エルフたちは露骨に嫌そうな顔をした。それを見て、同時に地上に上がってきていたコルベールらの顔がやや曇る。 しかし、テュリューク統領は年齢を重ねただけはあって、次の一言で彼らの口を封じてしまった。 「あの船以外なくして、どうやってこの渇きの大地から帰れるというのかね?」 選択の余地はなかった。鉄血団結党ほどでなくとも、蛮人嫌いの性質をたいていのエルフは持っている。けれども、自分の 命よりも主義主張のほうが大切という偏屈はそうそういない。 再び東方号を狙い始めたガランを、エルフたちは魔法を使って牽制しはじめた。戦闘訓練を積んだエルフの魔法はすさまじく、 砂の混じった竜巻が幾重にも重なってガランを襲う。普通ならば、真空波と高速でぶつかる砂がカッターとなってズタズタに 切り刻まれてしまうだろう。 が、その普通を超越しているのが怪獣であり、怪獣を超えるものが超獣なのだ。 「なんてやつだ。あれで動けるというのか!」 ダメージらしいダメージはほぼゼロであった。ガランはうろこのひとつも落とすことなく、完全に無傷で魔法を耐えている。 逆に振られた尻尾がエルフたちをなぎ払いにかかってくる。避けるのもこらえるのもとても無理だ。 だが、彼らに冥界の門は再び扉を閉ざした。命中直前、飛び込んできた水精霊騎士隊が彼らを抱えて飛び上がったのだ。 「ふぅーっ、危ねえ。超獣に突っ込むつもりだったのに、間違っちまったぜ」 「お、お前。もしかして俺を助けるために?」 「ち、違う! お前たちを救うために……わざと飛び込んだわけじゃないんだからなぁーっ!」 以上、ある水精霊騎士隊員とエルフのやりとりである。なにがやりたかったのか不自然な会話だが、もしかしたら才人から どうでもいい地球の知識でも仕入れていたのかもしれない。 「と、ともかく。避けるのはおれたちがやる、あんたらは攻撃に専念してくれ!」 「ば、蛮人に指図されるいわれはないっ! ええい、ままよ!」 なかばやけくそぎみながら、人間とエルフはコンビネーションを発揮して超獣ガランに挑んでいった。 水精霊騎士隊が超獣の攻撃を読んでかわし、エルフのほうは攻撃魔法に集中する。魔法の威力では遠く及ばないにしても、 水精霊騎士隊は怪獣との対決経験は豊富だから、だいたい超獣がどう動くかは直感的に予感することができた。大振りな 超獣の攻撃をかわし、あくまで安全に、足止めだけを目的にして彼らは相当な善戦を見せていた。 「おお! 彼らもなかなかやるではないか」 コルベールが生徒たちの活躍に、思わず笑顔を浮かべて快哉をあげた。この砂漠の熱気の中で、あれだけ動けるとは 体力がついたものだ。一ヶ月間銃士隊にしごかれたのは無駄ではなかったということか。 ちょこまかと動き回る小さい者たちを、ガランは執拗に追いかけている。本来の目的は別にあるだろうに、バキシムや ブロッケンのように高度な知性を持たされていないガランは、命令がなければ本能に従って暴れるしか出来ない。 だがそれも、人間とエルフのがんばりあってこそだ。コルベールとテュリュークは、ふたつの種族が力を合わせて戦ってる 姿にともに顔の筋肉を緩めていた。 「やるものですな。噂には聞いてましたが、あれが砂漠の民の力ですか」 「いやいや、あの若者たちもなかなかやりおるではないか。これは先行きが楽しみなものじゃな」 「ええ、東方号もこれなら大丈夫でしょう。やはり、人間とエルフは相容れない生き物などではない! 私はそう確信しました」 小さなことなど吹き飛ばす必死さが、凸凹ながらエルフと人間の共同戦線を生んでいた。 見よ! その気になったらわだかまりを乗り越えるなど、こんな簡単なのだ。エルフと人間に翻弄されて、ガランはすっかりと 東方号を攻撃する気を失ってしまっている。ミシェルたちの必死の努力が実って、水蒸気機関のプロペラも高速回転を始めた。 あれなら飛べる。飛べさえすれば、どうにかすることもできる。エルフ相手には使わなかったが、新・東方号には初代 東方号に装備されていた秘密兵器と、新型兵器もいくつか搭載されている。が、それも飛ばなくては使えないが、飛べれば なんとかすることができる。 「いいぞ、その調子だ。私の目は間違っていなかった。彼らならば、エルフと人間のかきねを超えて、ふたつの種族に新しい 道を示すことが出来るに違いない」 コルベールは確信を持って、その言葉を口にした。若者には、大人には想像もつかない可能性がある。急に完璧とは いかなくても、エルフと人間がいがみ合う以外のこともできるんだと見せることが出来れば、六千年に及んだ確執の壁に 蟻の一穴を作ることがあるいはできるかもしれない。 だがそのとき、期待に胸を膨らますコルベールの耳に、砂漠の熱気すら一瞬で冷ますような冷たくおどろおどろしい声が響いてきた。 「そんなことはさせんよ。お遊びはここまでだ、人間とエルフよ」 「なにっ!」 とっさに振り向いたコルベールとテュリュークの目に、砂丘の上に立つ一人の男が映ってきた。黒いコートに黒い帽子、 まったく砂漠に似つかわしくない容姿。なにより、世界のすべてを見下げているような不気味な笑い顔が、コルベールに ホタルンガが現れたときのことを、テュリュークには竜の巣から逃げ帰ってきた水軍士官からのおびえきった報告が思い出さされる。 「貴様! ヤプールか!?」 「ほう? 私がわかるのかね。どこかで会ったかな? まあいい……人間たちよ、先日はよくもバキシムをやってくれたな。まさか、 セブンが邪魔をしに来るとは完全に想定外だったが、それでもお前たち程度の技術力でよくぞここまでやってきたとほめてやろう。 しかし、それもここまでだ」 「くそっ! 我々のあとをつけていたのか」 「フフフ、私がお前たちの小ざかしいたくらみを見逃すとでも思ったか? バキシムに探らせて、お前たちの目論見などは とうに知っておったわ。泳がせておいたら、こんなところにやってくるとは意外であったが都合がいい。ここでなら、どこからも 助けはこない。くだらない伝説もろとも消し去ってくれる!」 勝ち誇った笑みを浮かべ、ヤプールはマントを翻してガランに手のひらを向けた。 「さあガランよ! そんな奴らと遊んでいるのではない。お前の敵はあれだ。叩き潰せ、ガラーン!」 ヤプールの思念がテレパシーとなり、ガランはくるりと向きを変えると東方号に向かって進撃を再開した。水精霊騎士隊と エルフたちは、ガランの気を引こうと攻撃を続けるが、今度はガランは見向きもしなくなっている。ガランは、知性は低い 超獣だが、その反面テレパシーによる命令には忠実に従う特性を持っている。 しかしそのとき、ついに東方号が巨体を蹴って動き始めた。砂を巻き上げ、砂丘を砕いて少しずつだがガランから遠ざかっていく。 コルベールは、これでなんとか逃げ切れるかと希望を持った。だが、希望を絶望に変えることこそ、悪魔の最大の楽しみである。 「馬鹿め! 逃げられると思ったか。ガランよ、機能停止光線を放てぇ!」 ヤプールの命令と同時に、ガランの鋭く尖った鼻が緑色に光った。その光を浴びた東方号は、急にエンジンの回転が 鈍って、動きが止まってしまったのだ。 「どうした! 止まってしまったぞ、原因は何だ」 「わかりません! 機械は全部正常に動いているはずなんですが」 置物のように止まってしまった東方号の中で、ミシェルたちが慌てふためいて駆け回っているが、どの機械もさっきまでと まったく変わらずに動いており、止まってしまった理由がわからない。 「艦長代理! 機関砲も動きません!」 「なんだと! まずい、これでは東方号といえども」 逃げることも戦うこともできない。あの超獣の仕業なのか!? これでは、比喩ではなく本当に瀕死のタヌキでしかない。 砂漠に巨大な足跡を残しつつ、ガランはまっしぐらに東方号を目指していく。ヤプールの勝ち誇った笑いはさらに大きくなる。 「フハハハ! やれ、破壊するのだ」 「どうした! なぜ飛ばないのだ! ヤプール、貴様の仕業か?」 「そのとおり! ガラン光線はあらゆる機械を停止させる効果を持つのだ。もはや、貴様ら自慢の船はガラクタも同然だぁ!」 けたたましく、悪魔そのものの形相でヤプールは笑った。ガランの放つ怪光は一種の精神感応波で、これを受けてしまったら いかなる機械装置といえどもガランの思うがままに操られてしまう。タックファルコンやタックアローを操って不時着に 追い込んでしまったことはおろか、タックガンやビッグレーザー50などの携帯火器すら使用不能に陥らせてしまったほどの 威力を誇り、しかもテレパシーであるから電波妨害への対策もまったく役に立たない。 機能そのものには一切異常がないにも関わらず、東方号は完全に行動不能に陥らされてしまった。数少ない武器の 機銃も動かない東方号は、本当にどうすることもできない。 しかし、最初からこの能力を使えばよかったのに、なぜ黙っていたのか? コルベールはそう思ったが、すぐにヤプールの 下種としか呼べない嗜好に思い至った。 「貴様、我々のあがきを見て楽しんでいたな!」 「ファハハハ! そのとおり、ざっくりと始末してしまうなら簡単だが、それでは絶望が浅い。善戦させ、希望に満ちたところを 落としてこそ絶望が深まる。我らを悪魔と呼ぶか? よろしい、最高の褒め言葉だ!」 宇宙最悪の生命体、異次元人ヤプールらしい考えであった。純粋悪、しかしこいつは元々は自分たち人間やエルフの 歪んだ心から生まれたもの、いわば鏡に映った自分たちの影……それが悪魔と化して自分たちを滅ぼそうしているのだと 考えると、ヤプールへの罵倒はそのまま自分たちへの罵倒となる。 コルベールもテュリュークも、形を持った悪魔を前に、どうすることもできない。護衛の騎士団が魔法をぶっつけても、 すべて見えない壁にはじき返されてしまった。襲い掛かる無力感が、コルベールの胸をしめていく。 「ミシェルくん、もういい。東方号はいいから、君たちだけでも逃げるんだ!」 命には換えられないと、コルベールは叫ぶ。 しかし、ヤプールが笑い、目の前に超獣が迫りつつあるのに、ミシェルは艦橋から一歩も動こうとはしなかった。 「まだだ、まだわたしはあきらめない。最後まであきらめなければ運命は変えられる。奇跡は起こるんだって、サイトは教えてくれたんだ!」 この世で唯一愛した男の名を叫んで、ミシェルは踏みとどまった。悪と絶望に立ち向かえるものがあるとしたら、それは 愛と希望のほかになにがある。命ある限り、負けはしない! 本当は泣き出したいほど怖いけれど、才人が帰ってくるまで、 希望は守り抜く。 そして、その強い思いは、マイナスエネルギーとは真逆の力強い光の力となって集まり始めていた。 遺跡の地下通路……ガランの引き起こした地下水流出で水没しつつある通路を、才人たちは必死になって走っていた。 「くそっ! あと何キロあるんだよ。この遺跡作った奴、張り切りすぎだぜ」 「ルイズ! 本当に君の虚無魔法で脱出できないのかい?」 「人を便利屋みたいに言わないでよ。飛ぶ人数が多いほど、飛べる距離は縮まるし精神力は削られるの。まったくもう、 すごそうに見えて使い勝手が悪いのばっかりなのよね虚無って!」 テレポートを使えばルイズひとりは外に出れても、そこで精神力はカラ。外でなにが起こっているかわからない状況では、 精神力は温存しておかないと、いざというときに困ることになる。 「もう……満足に使えたら、みんなを安全に逃がすことができるのに、こっちには怪我人もいるのよ。こんなのなら、 フライのひとつでも使えるようにしてくれなさいよって」 自分自身の非力さへの怒りも込めて、ルイズは小さくつぶやいた。 足元は水が流れ、速さや深さはまだ水溜り程度なので足を取られるほどではないが、焦燥感をかきたててくる。 しかも、落盤の岩や地割れを超えなくてはいけないので、その度に時間を食われてしまう。 「間に合うか……いや、間に合わせる!」 あきらめては奇跡は起こせないと、才人は坂道をひた走る。自分だけではない、背中には今にも消えそうな命を ひとつ抱えているのだ。 だが、走りながら才人はいつの間にか自分の喉元に鈍く光る刃が突きつけられているのに気づいた。 「なんだ目が覚めてたのか。よく切れそうなナイフだな、袖口に仕込んでたのか」 「……」 しゃべる力も残ってないのか、ファーティマからの返答はなかった。走りを止めず、才人は小声でファーティマに呼びかける。 「やめとけよ、おれを殺せば、落ちたショックだけでもてめえ死ぬぜ」 「……」 「たいした執念だな、よくもまあ毛虫みたいに嫌ってくれたもんだって感心さえするぜ。まあ、聞いた話じゃお前たちと 人間は戦争ばっかりやってたそうだからな。恨まれる筋なら、それこそ売るほどあるだろうな。てめえも……大方、 あんまり人に言いたくない半生を送ってきたんじゃねえのか? どうだ?」 返答の代わりに、わずかなうめきが聞こえたような気がした。 「ふん、人間もエルフもやっぱり同じか。ったく、まあた復讐者かよ、いい加減飽き飽きだぜ」 「……!」 ナイフがわずかに動いて才人の喉の皮膚に軽く触れた。お前になにがわかると、そう言いたげな反応だった。だが、 才人はつまらなさそうに答えた。 「てめえの事情なんか知ったことじゃねえし、聞いても大方想像と変わらないだろうから聞かねえよ。でもな、世の中を 恨んでるのがてめえだけだと思うなよ。家族や大切な人を理不尽に奪われて、悪魔に魂を売りかけた人を大勢見てきた。 みんな、てめえみたいな暗い目をしてたよ。てめえの考えてること当ててやろうか? わたしはこの世の誰よりも不幸なんだ、 だからわたしにはこの世界を変える権利がある、わたしより幸福なやつはみんな敵だってか。どうだ外れてるか?」 ファーティマの手は、静かに震えていた。 「わかりやすいな、てめえみたいな奴の考えることはだいたい同じだ。それで憎むべき敵がおれたち人間か。そうか……」 才人はそこで言葉を切った。ファーティマは、落ちる勢いで才人の首を掻っ切ることくらいはできるだろうに、動こうとはしない。 少しだけ沈黙が続き、やがて才人はまた口を開いた。 「けど、ちょっとだけ安心したよ」 「……!?」 「ほんと言うと、おれもエルフがどんな奴らか不安だったんだ。ティファニアはハルケ育ちだし、ルクシャナは変な奴だし ビダーシャルは無愛想だし、いまいち納得いかなくてな。でも、あんたを見て思ったよ、人間もエルフも似たようなもんだ。 蛮人嫌いなんて馬鹿げてるぜ。あんた、おれたちとそっくりだ」 「……!」 「はいはい、文句があるならあとで好きなだけ聞いてやるから、今はとりあえず助けさせろ。死んだらケンカもできねえぞ。 それに、てめえには心外だろうがてめえはティファニアに命を救ってもらった恩がある。自分を殺そうとした相手をだぞ、 あそこまでのお人よしをおれは見たことねえよ」 ちらりと才人がティファニアを見ると、彼女は走って息が上がりながらも心配そうに尋ねかけてきた。 「あの、サイトさん。その人、大丈夫ですか?」 「ああ、心配するな。こういう奴はちっとやそっとのことじゃくたばらねえよ」 才人は、自分が命を狙われていることなどはおくびにも出さずにティファニアに笑い返した。 ファーティマは、心の中でうずまく怒りの正体を自分でもつかむことができず、ただ歯を食いしばって苦痛に耐えている。 曇りひとつない小さなナイフが水の中に落ち、流れにそって闇の中に消えていった。 そして、憎むべき敵をさえ救おうとしたティファニアの優しい心が、握り締め続けていた輝石に届くとき、輝石は静かに 輝いて、眠れる守護者を呼び起こす。 いままさにガランに破壊されようとする東方号。だが、そのとき新たな地鳴りと共に、砂漠の一角から砂の竜巻と共に 甲高い鳴き声をあげながら巨大な翼を羽ばたかせた巨鳥。ワシのような頭部と翼を持ち、恐竜のようなたくましい四肢を 持つ威容は、遺跡の入り口にあった像とまったく同じだ。 「ま、また別の怪獣が!」 「いや、あれはまさか伝説の……」 うろたえるコルベールとは裏腹に、テュリュークは神々しいものを見たかのようにつぶやいた。 現れた鳥の怪獣は、ガランに向かって前進をはじめた。それに気づいたガランも迎え撃つ姿勢をとる。人間とエルフの 攻撃ごときは無視して構わない超獣といえど、さすがに相手が怪獣となれば相応の対処をとらなければならない。 水精霊騎士隊とエルフたちは、怪獣と超獣の激突などに巻き込まれてはひとたまりもないと避難した。 二匹の雄たけびが砂漠の空気を震わせる。もはや両者の衝突は必至だ。しかしヤプールは、その怪獣に強い正の エネルギーを感じてガランに叫んだ。 「ぬうう、邪魔する気か! ガランよ、そんなやつに構うな。さっさと人間どもの船を叩き潰してしまえ!」 ガランはヤプールの命令に忠実に従い、東方号に巨大な腕を振り上げる。甲板から銃士隊員たちの悲鳴が上がり、 その腕が振り下ろされようとした、まさにその瞬間。新たな翼が空のかなたから現れた。 「あっ! あれは」 青い翼を持つ巨鳥、それは急降下してくるとガランに口から光弾を放って攻撃し、ひるんだガランに体当たりを食らわせた。 そのまま降り立ち、東方号を守るように立ちはだかる怪獣。さらに、先に現れた怪獣もガランに向かって威嚇するように吼える。 「ええい! なんなんだ次から次へと、この怪獣どもは!」 二匹の怪獣の出現という、まったく予想だにしていなかった事態にヤプールも苛立ちの声を上げた。 誰にも知られない砂漠を舞台にして、怪獣と超獣の三つ巴の戦いが始まろうとしている。 六千年の昔、この砂漠に封じられた伝説。それは、同じ悲劇が繰り返されようという今、言い伝えから現実になろうとしていた。 果たして、伝説を残したものの真意はなにか? 虚無との関係は? すべてが明かされるときは、目前まで迫っているのかもしれない。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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戻る マジシャン ザ ルイズ 進む マジシャン ザ ルイズ 3章 (41)摩耗したパワーストーン 外では雨が降っている。 大地を濡らす、嘆きの雨だ。 「お話は分かりました……」 白衣を纏った青年が、小さく唇を動かして、漏らすようにそう口にした。 ハルケギニアにおいて最大の教勢を有する始祖ブリミルへの信奉、それらを一手に纏め上げる『宗教庁』。 その中心は、光の国の別名を持つロマリア連合皇国、その随一の都市ロマリアにあった。 美しい、人々が一目見て感動し、崇敬することまでを計算に入れて作られたかのような、染み一つない見事な白亜。 五つの塔とその中心に座する巨大な本塔、そして周囲に点在する大小美しくも荘厳な建造物群。 『大聖堂』 ハルケギニア最大の、宗教権威の象徴。 その本塔、上層階で、司祭達の頂点に立つ青年は呟いた。 ロマリアの大聖堂、その謁見の間には今、四人の男女の姿があった。 一人は清浄なる白衣を纏った青年、教皇聖エイジス三十二世。 その対面はそれぞれ折り目正しい礼装を身に纏ったキュルケ、モット、コルベールである。 「ゲルマニアの窮状、トリステインの言い分、そしてアルビオンの非道。確かに全て聞き届けました」 教皇の言葉を聞いて、三人は傅いたままの姿勢で、目に期待を滲ませて彼を見た。 三人の正面に立つ人物は歳若い、まだ少年時代を過ぎて幾ばくといったところであろう。 そんな彼がハルケギニアにおいて最も尊い存在と謳われる教皇の立場にあるなど、説明されなければ何人たりとも分からないに違いない。 だが一方で、説明されれば彼の持つ輝くばかりの美貌や、背負われた降り注ぐばかりの威光は、彼が教皇聖エイジス三十二世であることの証左だと、納得させるに足るものであった。 「確かに宗教庁としても、一連のアルビオンの行動には含むところが無くはありません」 閃光。 雨音を切り裂いて雷鳴が轟く。 稲光が瞬いて照らし出された教皇の貌は、憔悴と疲弊に窶れていた。 「我々宗教庁は、あなた方の計画する反アルビオン連合への協力を惜しみません。ロマリアの議会にもそのように働きかけを行いましょう」 再び雷光。 一瞬不気味に白く浮かび上がった教皇のシルエットは、人として不完全な形をとっていた。 彼は教皇の位を示す聖杖を左手に持っている。 そして、本来それを握るはずの右手が、肘のあたりから先、無い。 教皇聖エイジス三十二世はその右手を聖衣の下に隠している。しかし、その長さが明らかに足りない。 教皇が隻腕の青年であるなどということは、訪ねた三人の内、誰もが知らぬことであった。 「ガリア女王の出した条件についても、特に問題ありません。そう女王陛下にお伝え下さい」 その一言により対アルビオン戦の要、ガリアの女王イザベラ一世との会談の為のお膳立てが、すべて揃えられた。 使命はここに果たされたのだ。 ガリア・ロマリア・トリステインの協力関係はきっと無事に築かれるに違いない。 全ては万事順調。 だというのに、その偉業を成し遂げたモット伯の顔色は優れなかった。 「聖下、発言をよろしいでしょうか」 モットの言葉に教皇は美しい微笑――壊れやすい陶器のような――を浮かべ、頷き応えた。 「聖下は……宗教庁は、この度のアルビオンの不穏を、どの程度か把握しておられたのではありませんか? 先ほどの口ぶりは、そう受け取れるものでしたが……」 確かに先ほど教皇は、宗教庁にはアルビオンへ思うところがあると発言している。 だが、モット伯がそうと思うに至った根拠は、それだけではない。 宗教庁は一般的に世俗には無関心とされているが、その実、他国を圧倒する情報戦のエキスパート達、優秀な密偵達を擁しているとも噂されている。 そしてその噂は単なる与太話の域に止まらず、信じるに足る根拠がいくつもある。実際に真実と信じているものも決して少なくはない。 モットもその一人である。 例えそのことを差し引いて考えたとしても、強大な権力と、ハルケギニア全土に広がる信徒・司祭達の連絡網を持つ宗教庁に、これまで一切の情報が入って来なかったというのは考えづらい。 ならばこそ、そのことをモットは問いたださねばならなかった、貴族として、ブリミルを信奉する者として。 この異常事態に宗教庁は、敬虔な司祭の長達は何を考えていたのかを。 死んでいった部下達や多くの者達の、代弁をしなければならなかった。 教皇は張り付いた笑顔に、無気力が滲んだ胡乱な目を一瞬モット伯に向けてから、子供に語り聞かせるようにゆっくりと喋り始めた。 「……そもそも、このような流れになること自体が、定められた世界の想定外だったのです。我々はその軌道を修正ないしは利用して、望みうる最良の結果を得るべく行動を起こしましたが、 ……結局、あなた方がこの場に現れた事実が、それすらも失敗に終わったことを示しています」 答えにならぬ答え。 宙を仰いで語る教皇の姿は、まるで老人のように疲れ果て、力なく。 そして、聞き届ける者も居ない独白は更に続く。 「我々は賭に負けたのです。真の主役はあなたたち、我らは表舞台からただ転がり落ちた落伍者にしか過ぎません。ならばこの度の機会は諦め、流れに任せ次の機会を待つのが、我らに残された最後の道なのでしょう」 それはあるいは始祖ブリミルへの告白だったのか。 独白は謳うように虚空へと流れ、何も残さず消えていった。 教皇の言葉は終わったが、疑問をぶつけたモット伯は戸惑いを隠せなかった。 今の言葉が問いかけに対する応えには思えない。しかし教皇が自分を煙に巻こうとしている発言とも思えなかったのだ。 そもそも、今の語り口からは、何かを成そうという覇気が感じられない。 彼自身の口から語られたとおり、それはまるで全てを諦めた落伍者のようであった。 一方、隣で傅くキュルケには、教皇がその身に纏っている気配の正体を敏感に察知していた。 今やアルビオンで探せばどこにでも転がっているそれは、『絶望』と『諦観』という名の感情である。 きっと教皇は、アルビオンに対して中立の立場を取ることで、何らかの利益を得ようとしたのだろう。しかし、実際には思い通りにことは運ばず、むしろ思いもしなかった破綻へと集束したのだ。 そうして絶望し、失意のうちに諦めと無気力に飲み込まれ、流されるに任される。 そうした姿を、キュルケはよく知っていた。 雨音だけを残して、沈黙の帳が落ちる。 モットは計りかねるようにして言葉を絶って、その姿から真意を掴み取ろうと教皇を凝視している。キュルケは興味がないとばかりに、すでに教皇に意識を向けていない。 「猊下、私もよろしいでしょうか」 よって、沈黙を破ったのは、この場に参じてから一度も口を開いていない人物であった。 「……あなたは?」 「トリステイン魔法学院の教師、ジャン・コルベールです。特使のお二人をこの地に運ぶ役目を仰せつかりました」 「……それで、その行者の方が、この私にいったい何の用向きでしょうか?」 コルベールは一つ頷くと懐へと手を差し入れ、そこから何かを握りしめ取り出した。 そして握った手を返して開くと、そこには小さな赤い箱が乗っていた。 コルベールはその箱を開けると両手で捧げ持ち、三歩前に出て教皇にその中身を見せた。 小さな箱……その台座に眠るように嵌め込まれていたのは、簡素な作りの、赤い宝石を嵌め込まれた古ぼけた指輪であった。 それを見た教皇の双眸が、驚きに見開かれる。 「! これは……」 「火のルビーでございます」 始祖の遺産、四の四。三王家一教皇に伝わる秘宝中の秘宝。 かつてトリステインへと逃げた、ある女が所持していたはずのそれ。失われたと思われて久しかったそれが、コルベールの手の中にはあった。 「聖下のお名前を知ったときから、いつかお渡ししなくてはならないと思っておりました……このような機会、このような場になったことをお許しください」 かつての持ち主ヴィットーリア、そして教皇たる青年ヴィットーリオ。 単に有りふれた名前、似ている名前というだけかもしれなかったが、それでもこれが一つの運命的な繋がりであるように、コルベールには思えたのだ。 「あなたはこれをどこで?」 「………」 「いえ、聞くべきことではありませんでした。今はただ、この指輪が戻ってきたことを喜びましょう」 コルベールは深く頭を垂れてじっとその言葉を聞いていた。 教皇聖エイジス三十二世の言葉は静かであるが、自然とひれ伏さなければならないと思わせる威厳に満ちていた。 そのような教皇の神々しさを目の当たりにしたコルベールは、しばし我を忘れて逡巡する。 「まだ何か?」 慈悲深い労りに満ちた、柔らかな声。 跪いたまま下がるでもなくその場に止まったコルベールに向かって教皇が問いかけた。 その言葉に、慈悲に、コルベールは縋り付かずにはいられなかった。 「聖下、過去に過ちを犯した罪人は、今をどのように生きればよいのでしょう」 二十年。 それは彼が二十年悩み続けてきた疑問だった。 コルベールの突然の問いかけにも動じず、教皇は慣れた様子で滑らかに答えを述べた。 「罪は償わねばなりません。過去の罪は現在の贖罪によって購われるでしょう」 「それでは、購いきれぬ過ちを犯した人間は、どうすればよいのでしょう」 「………」 強い、二度目の問いかけに、今度は教皇がしばし躊躇う。 彼は宗教庁の代表たる教皇として口にするべきことと、教皇聖エイジス三十二世として口にするべきことを天秤にかけ、 「罪が許されるまで、あるいは生涯を終えるまで、贖罪に身を費やすのです」 己の考えを口にした。 「つまり、それは……現在を、未来を、過去の精算に充てよということですか」 「そうです。その通りですジャン・コルベール。購えきれぬほどの罪ならば、その生涯を、現在を、未来を、過去の奴隷として贖罪の火にくべるのです」 穏やかな口調とは裏腹に、それは苛烈すぎるほどに、断罪の言葉であった。 コルベールが崩れ落ちる。 「ああ、……私は、やはり、許されぬ身なのか……っ」 咽び泣く、悔恨をその身に浴びて、嘆きに身を任せる。 その姿を見て、キュルケは溜まらずコルベールに声をかけようとした。 「ミ……っ」 だが、直前、思い止まる。 感情とは、その人間ただ一人のもの。 その決着は、己の手で掴み取らねばならぬ。 そこに余人の入り込む隙間などない。 いつか聞いたそんな言葉が、安易な慰めの言葉を遮ったのだった。 床に崩れ、嘆きに伏せるコルベールに、しかして教皇は、明るく暖かみのある声で語り降ろした。 「けれどもジャン・コルベールよ。私はあなたを祝福こそすれ断罪しようなどとは思いません。たとえあなたがこの指輪の持ち主から、どのような経緯でそれを受け取ったのだとしても」 頭上から降り注いだ声、その意味がわからずコルベールは涙の跡もそのままに、呆然とした顔立ちで目の前の教皇を仰いだ。 「この指輪の持ち主は、私の母でした」 「!」 事も無げにいうと、教皇は笑みすら浮かべて先を続けた。 「彼女は罪人でした。神に選ばれた息子の力に恐怖し、運命からも逃げ出した、本当に救いようのない咎人でした」 自分の母を、罪人と言い切る教皇の姿。 「よって、例えあの者が神の裁きを受けたとしても、それは運命。執行者はただそれを代行したに過ぎません。私にはあなたを祝福しこそすれ、罰することなど、できようはずがありません」 自分の母の死を、運命だとして肯定する姿。 「さあ胸を張りなさい。ミスタ・コルベール。あなたに神と始祖の祝福があらんことを」 コルベールが恐る恐ると覗いた教皇の目には、ここ数ヶ月で何度も目にした、あの狂気の色が映り込んでいたのだった。 深淵。 一寸先も見えない真の暗闇の中。そこにカツンと一つ、音が生まれた。 灯る光。 魔法のカンテラの明かりに照らし出されて、漆黒の眠りを妨げた闖入者の姿が浮かび上がる。 背格好は平均的な成人男性のそれよりやや高い。 身につけているのは純白の聖衣、頭に被った司祭帽には始祖ブリミルを崇める高司祭の地位を示した章紋。 何より特筆すべきは、闇の中にあって一筋の光明の如き、輝かんばかりのその美貌。 大聖堂地下、その秘奥。 代々の教皇と、その教皇の信任を勝ち得たほんの一握りの人間しか知り得ぬ、何重もの封印を施された秘密の小部屋、教皇はそこにいた。 「まさか……この局面で、私の手に戻ってくるとは思ってもみませんでした」 そう言って、教皇が左手でそこに潜むものに見せつけるように掲げたのは、赤い宝石がつけられた飾り気のない指輪である。 ウルザがパワーストーンと呼び、ルイズが二つ、ワルドが一つそれぞれ所持している始祖のルビー、その最後の一つが今、教皇の手の中にあった。 ずっとコルベールの元にあったそれは、ウルザの探索の手からも、ワルドの収集からも、他のパワーストーンとの共振からも逃れ、戻るべき主の手中に収まっていた。 では、如何なる手段を用いればそのようなことが可能であったのか? 種明かしは、火のルビーが宿したその弱々しい輝きにある。 それぞれ、独自の色に輝きを秘めたる四のルビー。だが、今教皇の手の中にあるそれは、くすんでおり輝きがほとんど感じられない。 火のルビー、本来ならば烈火の如き勢いで力を汲み上げることが可能なはずのそれは、力を著しく減退させており、故にこれまで誰にも感知されることがなかったのである。 教皇がカンテラを持った手で火のルビーを掲げた為、図らずともその光が闇に潜むものたちを照らし出した。 晒され現れたのは、無数の鉄の骸。 教皇が立つ足下の床には、無数の鉄くずが転がっていたのである。 それを見た教皇の耳に、言葉が蘇る。 『よかろう教皇猊下!』 『使い魔の命に免じて』 『貴様の右腕とこの場にあるガンダールヴの槍だけで』 『この場は満足するとしよう!』 『しかし、慈悲は一度だけだ』 『余計なことは考えるな』 『何もせず、じっとしていれば』 『おまえたちの望みは叶う、叶うのだ』 『くれぐれも、余計なことなど考えぬことだ』 頭蓋の中で、跳ね回るようにして言葉が残響した。 脳を直接揺さぶられるような苦痛に、教皇は頭を押さえてその場に蹲る。 その拍子に足下にあった一つの残骸が、霞む彼の目に留まった。 周囲に散乱しているのは、破片、破片、破片、破片…… それらは形も止めないほどに破壊され尽くした、カンダールヴの『槍』だった。 巨大な鉄の塊から異界的なフォルムを持つ何に使うか分からない器具、未だハルケギニアでは実用化の目処がつかない連続式自動拳銃、etcet...... それらは本来異世界からこの世界に呼び込まれた、ガンダールヴ最大の武器になるはずだった『槍』の、なれの果てである。 何重もの『固定化』や『硬質化』がかけられて保存されていたはずのそれらは、ただ一人の力によって、残らず本来の機能を破壊されてしまっていた。 その破壊の瞬間を、教皇はこの場で居合わせ目にしていた。 暴威を可能とした圧倒的な力。 まるで神が目の前に降臨したかのような、いっそ冒涜的ともいえるような存在感。 何もかも全てが、人間に許された領域を逸脱していたアレ。 そのような存在を目の当たりにした彼は、生まれたばかりの赤ん坊が泣くのと同じように、ただ、素直に本能に従った。 即ち、頭を垂れ、地に伏したのだ。 教皇は思う。 あのとき、膝を屈したその瞬間から、自分はこの世界において不要な存在になったのではないのかと。 今の自分は何もつまっていないただの存在の残りカスなのではないかと。 ああ、そう考えるだけで、息が、息が、息が…… 「!……かっ、はっ……」 瞬間、教皇は地の上にて溺れかけた。 だが、不意の偶然/あるいは必然によってその意識は別のものに向けられて、危うく窒息を免れる。 彼を救ったのは、右手が発した痺れるような鈍い痛みであった。 本来感じるはずのない、喪われた右腕の痛み――幻痛。 皮肉にもそれこそが闇に飲み込まれそうになった彼の意識を救ったものだった。 「そう……まだ終わっていない。思いがけず、機は巡り来た……」 青い顔をして、ぜえぜえと荒い息をつくと、彼は左手の中指に収まったそれへ目線を向けた。 「この指輪こそが、真なる救済の始まりとなりますよう……どうか始祖ブリミルよ、哀れなこの私を見守りください……」 そうして教皇は、床に倒れたままで聖句を、始祖ブリミルへの祈りを唱えたのだった。 パワーストーンを扱う者よ、心せよ。 その力は容易に心を掻き乱す。 用心せよ。その力が何をもたらすものなのか、もう一度、思考せよ。 ――スランの技術者 戻る マジシャン ザ ルイズ 進む
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前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百二十六話「輝け!ウルティメイトフォースゼロ」 根源破滅海神ガクゾム 根源破滅飛行魚バイアクヘー 宇宙海人バルキー星人 登場 異常に暑い日が続き、海に涼を取りにやってきたルイズたち。しかしそれは逆襲を目論む バルキー星人の罠だった! ルイズたちが人質にされ、才人に海の怪獣軍団が差し向けられたが、 ウルティメイトフォースゼロの力で撃退に成功。ルイズたちも救い出し、残すはバルキー星人 ただ一人かと思われた。 だがバルキー星人は切り札の怪獣を残していた! しかもただの怪獣ではない。強大な闇の 力を持つ根源破滅海神ガクゾムだ! 暗黒の脅威にどう立ち向かうか、ウルティメイトフォースゼロ! 「グアァ――――――――!」 海より現れたガクゾムの威容を見上げたルイズたちは、背筋に寒いものが走って一様に震え上がった。 「な、何なのあの怪獣は……! 威圧感が半端じゃないわ……!」 冷や汗まで垂らしたルイズがそうつぶやいた。彼女たちもまた、生命としての根源的な 本能により、ガクゾムに充満する闇の力に危険を感じ取っているのだった。 そしてガクゾムの出現とともに、快晴の青空に異常なスピードで暗雲が立ち込め、辺り一帯が 暗黒に覆われていく。 「な、何だこの現象は!?」 「暗くなっただけじゃなく、急に寒くなってきたよ……!」 突然のことにギーシュがたじろぎ、マリコルヌがブルブル身震いした。暗黒が空を覆うと ともに、熱がその暗闇に奪われたかのように気温が低下したのだ。 「あの怪獣が、この現象を引き起こしたのか……!?」 レイナールのひと言に、オンディーヌはますます震え上がった。周囲の環境にまで干渉するとは、 それだけ計り知れないパワーがある証拠。果たしてそんな力を持つあの怪獣に、ウルティメイト フォースゼロはどう戦うのか。ここから先は、彼らの戦いを見守ることしか出来ない。 「……!」 オンディーヌが不安を覚える中、ルイズは固唾を呑んでゼロたちの背中を見上げていた。 「グアァ――――――――!」 ウルティメイトフォースゼロの四人を見据えたガクゾムは、己の両腕を彼らに向けてまっすぐ 伸ばした。 その腕の先より、怪光弾が発射される! 『うおあぁぁッ!?』 怪光弾はゼロたちの足元に着弾して凄まじい爆発を引き起こし、四人を纏めて吹っ飛ばした。 『ぐッ……すげぇ威力の攻撃だッ!』 受け身を取って起き上がったゼロがうめく。 「グアァ――――――――!」 ガクゾムはそのまま攻め手を緩めず、ゼロを狙って怪光弾を連射する。 『うおおおおッ!』 光弾の爆発の連続がゼロを襲う! 「ゼロッ!」 思わず叫ぶルイズたち。ガクゾムの猛攻の前にゼロは反撃に転じる間もなく、ただやられる ばかりかのように思われたが、しかし、 『はぁッ!』 そこにミラーナイトが躍り出て、ディフェンスミラーを展開。光弾を防ぎ、ゼロを救った。 しかしディフェンスミラーも連続する光弾の破壊力の前にひび割れていく。 『くッ、長くは持ちません!』 『それだけで十分だ!』 ミラーナイトが時間稼ぎをしている間に今度はジャンボットが前に出て、ロケットパンチを飛ばした。 『ジャンナックル!』 高速で飛んでいったパンチはガクゾムの頭部に炸裂し、ひるませて光弾発射を途切れさせる。 「グアァ――――――――!」 『今度は俺の番だぜ! うらぁぁーッ!』 隙が出来たところにグレンファイヤーが続き、鉄拳を浴びせた。その衝撃でガクゾムは 後ろによろめいた。 『よぉしッ! てあぁぁッ!』 更に持ち直したゼロが空高く跳躍し、斜めに急降下してウルトラゼロキックを放った。 その一撃がガクゾムを大きく蹴り飛ばす。 「グアァ――――――――!」 地面の上に倒れるガクゾム。それでオンディーヌが歓声を上げた。 「おおッ、やった!」 「さすがはウルティメイトフォースゼロだ! あの怪獣相手でも引けを取らない!」 強い絆で結ばれたチームの連携は抜群で、恐ろしい闇の怪獣の力も押し返していた。 『まだまだ行くぜぇッ!』 グレンファイヤーが一気に畳みかけようと前に乗り出した。 がしかし、その瞬間に海面から新たに何かが飛び出してきた! 『んッ!?』 それはゼロたちほどではないが、人間からしたら十分巨大な平たい魚型の怪獣だった。 そのヒレがハサミ状に変化すると、グレンファイヤーの首を挟み込む。 『ぐえぇぇッ! な、何じゃこりゃあッ!』 しかも魚型の怪獣は一体だけではなかった。何匹も海から飛び出してくると、グレンファイヤー、 ミラーナイト、ジャンボットの全身に挟みつく。 『みんなッ!』 『うわぁッ!? 何だ、この怪獣は!』 『み、身動きが取れん……!』 魚型の怪獣はガッチリと三人の身体に噛み込んでいて、動きを大きく阻害する。ゼロは魚怪獣たちが、 ガクゾムの放つ闇の波動に操作されていることに気づいた。 『この魚どもはさしずめ、あの野郎の眷属ってところか……!』 ゼロの推理した通りであった。名を根源破滅飛行魚バイアクヘー。ガクゾムに指揮される 怪獣であり、ガクゾムの武器でもあるのだ。 「グアァ――――――――!」 ミラーナイトたちの動きを封じてから、ガクゾムがまたも光弾を撃とうとする。ゼロはそれを 止めるべく、単身ガクゾムに飛びかかっていった。 『さえねぇぜ! せぇぇぇぇいッ!』 「グアァ――――――――!」 ゼロは宇宙空手の流れるような連撃をお見舞いして、ガクゾムが三人に手出し出来ないように 押し込む。 だがバイアクヘーはまだまだいた。複数のバイアクヘーが空を飛び回りながらゼロに接近し、 背筋にかすめるように斬撃を食らわせる。 『おわあぁぁッ!』 「グアァ――――――――!」 思わずのけぞったゼロに、ガクゾムが腕の打撃を浴びせる。今度はゼロがガクゾムとバイアクヘーに 追いつめられる番であった。 「あぁッ! 危ないゼロ!」 オンディーヌやルイズたちはゼロたちと怪獣の一進一退の戦闘を、ハラハラとした思いで 見守っている。 『くぅッ……!』 ガクゾムとバイアクヘーの波状攻撃に隙を見出せず、防戦一方のゼロ。そしてガクゾムの アッパーで宙を舞う。 「グアァ――――――――!」 『ぐはぁッ!』 だがゼロは吹っ飛ばされて逆さになった姿勢から、ゼロスラッガーを投擲した。 『てぇいッ!』 ゼロは敵に殴り飛ばされた勢いを逆に利用して攻撃のチャンスに活かしたのだ。しかもスラッガーは ガクゾムではなく、ミラーナイトたちに纏わりついていたバイアクヘーを切り裂いて三人を自由にした。 『おお、やった! ありがとうゼロ!』 『感謝する!』 『今度は助けられちまったな!』 『へへッ、ざっとこんなもんよ』 もう同じ手は食らわない。四人は飛んでくるバイアクヘーを片っ端から叩き落とし、近寄ることを 許さなかった。バイアクヘーさえ退ければ、ガクゾムを倒すのは難しいことでもない。 だが、バイアクヘーの真の能力はここからなのだった! 「グアァ――――――――!」 ガクゾムが高々と咆哮すると、全てのバイアクヘーはガクゾムの方に集まっていき…… 何と、ガクゾムの身体と一体化していった! 『何ッ!?』 「グアァ――――――――!」 ガクゾムの胸部に、バイアクヘーが変化して出来た装甲が追加され、両腕はカマ状に変化した。 この姿こそが、ガクゾムの本当の戦闘形態なのである。 「グアァ――――――――!」 早速両腕のカマから怪光弾を発射するガクゾム。その威力は形態が変化したことに合わせて 向上しており、ディフェンスミラーを一撃で叩き割ってミラーナイトを吹き飛ばす! 『うわぁぁぁぁッ!』 『ミラーナイトッ!』 『こんにゃろぉぉぉーッ!』 グレンファイヤーとジャンボットが殴り掛かっていくが、ガクゾムが振り回したカマによって 弾き返されてしまった。 『おわあああッ!』 『ぐあぁッ!』 『グレンファイヤー! ジャンボットッ! このッ!』 ゼロが三人の仇討ちとばかりにワイドゼロショットを発射。 「セアァッ!」 「グアァ――――――――!」 だがガクゾムの胸部装甲が、ワイドゼロショットを全て吸収した! 『何だとッ!?』 ガクゾムは光のエネルギーを闇に変え、暗黒光線をゼロに撃ち返す。 『うわああああ――――――――――ッ!』 あまりに強烈な一撃に、ゼロもまた大きく吹っ飛ばされて地面に叩きつけられた。大きな ダメージを受けたことで、カラータイマーが点滅する。 「ああッゼロぉッ!」 ルイズたちの悲鳴がそろった。一方でガクゾムの背後に控えるバルキー星人は、愉快そうに 高笑いを上げる。 『ナ――――ハッハッハッハッハッ! 思った通り、いやそれ以上のパワフルさだぜぇーッ! さぁ、ウルティメイトフォースゼロにとどめを刺すんだッ!』 「グアァ――――――――!」 すっかり気を良くしたバルキー星人が命ずると、ガクゾムはカマに闇のエネルギーを充填し、 「グアァ――――――――!」 一気に発射した! ……ただし、バルキー星人の方にだ! 『なぁぁ――――――――――――――ッ!?』 完全に予想外のガクゾムの行動にバルキー星人は対応できず、怪光弾をもろに食らってしまった。 そして瞬時に爆散して、消滅してしまう。 『なッ……!?』 あまりのことに驚愕するゼロたち。ガクゾムは強力すぎて、バルキー星人に制御し切れる 怪獣ではなかったのだ。 「グアァ――――――――!」 バルキー星人を抹消して、ますます獰猛さを駆り立てるガクゾムの様子に身を強張らせるゼロたち。 『何という凶暴性……! あんなものを野放しにしていては、ハルケギニアは滅茶苦茶に なってしまいます……!』 『うむ……! 絶対にここで食い止めねばならんな……!』 『やるこたぁ一つだけだッ! シンプルに、ぶっ倒すまでよッ!』 『ああ! みんな行くぜぇッ!』 立ち上がったゼロたちは戦意を奮い立たせ、改めてガクゾムに挑んでいく。 『おおおおおおおッ!』 光線技は吸収されてしまうので撃つことは出来ない。そのため四人は敢然と肉弾戦を仕掛けていく。 「グアァ――――――――!」 しかしガクゾムは単純なパワーも底上げされているのだ。グレンファイヤーの拳でさえ ガクゾムは揺るがず、カマの振り回しや蹴り上げで四人を片っ端から薙ぎ倒していく。 『ぐわぁぁッ!』 『ぐッ、ジャンミサイル!』 『であぁぁッ!』 ジャンボットがミサイルを、ゼロがスラッガーを飛ばした。しかしこれらもカマに叩き落とされ、 通用しなかった。 「グアァ――――――――!」 ガクゾムは両腕を伸ばし、カマの先端から光弾を乱射。ゼロたちを四人纏めて爆発の中に呑み込む。 『うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』 四人掛かりでも、強化されたガクゾムの前に追いつめられる。ガクゾムは戦っていく内に 消耗するどころか、どんどんと力を上昇させているようにすら見えた。 そしてガクゾムが暴れるにつれて、空を覆い隠す暗闇の濃度が上がっていくようだった。 「こ、このままではまずいぞッ! やられてしまうッ!」 「この世は闇に閉ざされてしまうのか……!?」 オンディーヌは冷や汗で汗だくになっている。周囲を覆う暗闇が、彼らの心をも弱気にさせているのか。 しかしそこに、ルイズがそんな弱気を吹き飛ばすかのような大声で唱えた。 「いいえ! そんなことにはならないわ!」 ルイズの表情には、こんな状況になっても消えずに光り輝く希望と、ゼロたちへの固い 信頼が窺えた。 「ゼロたちの光は、どんな暗闇にも負けることはない! それを何度もわたしたちに見せて くれたじゃない!」 「ルイズの言う通りだわ。ゼロたちはあんな乱暴な奴に屈したりはしないわよ!」 ルイズの意見にキュルケを始めとして、シエスタ、タバサらが賛同を示した。 彼女たちは知っているのだ。幾度もの戦いの中から目にしてきた、ゼロたちの本当の意味での強さ。 そしてその強さに信頼を置き、それが希望につながっている。 ゼロたちを信じるルイズは、彼らに応援の言葉を叫んだ。 「がんばって、ゼロぉぉッ!」 すると爆炎の中から……ウルティメイトフォースゼロの四人が堂々と立ち上がった! そして口々に語る。 『まだまだこんなものでは負けませんよ……!』 『我らを応援する声がある。その期待は裏切らん!』 『いい気になってんじゃねぇぜぇ! こっからが俺たちの底力が発揮する時だッ!』 『闇の化身め。見せてやるぜッ! 俺たちの光をッ!!』 ゼロが叫ぶと、四人の身体から光が溢れ出始めた。その光は徐々に高まるとともに、四つが 合わさって大きな一つになっていく。 「グアァ――――――――!?」 これを見たガクゾムは己にとっての危険を感知したのか、先ほどまで以上の勢いで怪光弾を 放って四人を攻撃する。だが彼らの光はガクゾムの攻撃によっても消えることはなかった。 『よぉし、行くぜぇみんなッ!』 『はい!』『うむ!』『おぉッ!』 ゼロの号令により、四人は同時に地を蹴った。そうして四人が星の如き輝きの巨大な光の 弾丸となって合体する。これぞウルティメイトフォースゼロの力と心、そして光が一つに なった時に使用することが出来るとっておきの切り札、ウルティメイトフォースゼロアタックだ! 相乗効果によって増幅された光の威力は、闇の存在に対して計り知れない効果を発揮する! 『うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!』 合体した四人は流星さながらの勢いで飛んでいき、怪光弾をはねのけてガクゾムに正面から激突した! 「グアァ――――――――!!」 最大威力の体当たりを食らったガクゾムは、四人の光を吸収することも出来ず、木端微塵に なって吹っ飛んだ! 「おおおおおッ!」 あっと驚かされるオンディーヌ。ガクゾムを見事粉砕したゼロたちは元の状態に分かれ、 砂浜の上に着地した。 『やったな……!』 『ええ。見て下さい、空も晴れていきます』 ミラーナイトの言う通り、ガクゾムの撃破とともに暗黒に包まれていた空に太陽の明かりが戻り、 元の青空が帰ってきた。 まばゆい日差しを浴びたことで、全ての危険が去ったことを実感したオンディーヌが大歓声を上げた。 「おぉッ! 太陽の光だぁッ!」 「やったぞぉー! ゼロたちの勝利だぁーッ!」 「ありがとう、ウルティメイトフォースゼロ!」 ゼロたちに向かって大きく手を振るギーシュたち。ルイズ、シエスタ、タバサ、キュルケの 秘密を知る者たちも、ゼロたちを見上げてうなずいた。 彼らに向かってうなずき返したゼロたちは、まっすぐに空高くに向かって飛び上がり、 この場から引き上げていった。 「……おぉーい! みんなー!」 そして才人が大きく手を振りながら、波打ち際を走ってルイズたちの元に戻っていった。 振り返ったギーシュが言う。 「あッ、きみ、今戻ってきたのかい! 全く、何というか、きみはいつも間が悪いな! 一番いい ところにいないのだから」 「ああ、ゼロたちはもう帰ったのか。いやぁ、今度はどんなすごい戦いしたのか見たかったなぁ」 すっとぼける才人に、ルイズが近寄っていって呼びかけた。 「サイト、ありがとう。また助けてもらっちゃったわね」 才人はルイズにニッと笑い返した。 「いいってことだよ。何たって、俺はお前の使い魔なんだからな」 戦いが終わり、才人も戻ったところで、オスマンがホッホッと笑いながら言葉を発した。 「いやはや、全くとんだ慰安旅行になってしもうたが、諸君が無事でひと安心じゃわい。 さて、これで暑さともお別れじゃから、着替えて学院に帰ろうではないか。皆、忘れ物の ないようにするんじゃぞ」 「分かりました、オールド・オスマン!」 オスマンの後に続いて宿に戻ろうとするオンディーヌの背中に、キュルケが呼びかける。 「あらあなたたち、何か忘れてるんじゃないかしら?」 「えッ、何か忘れてるって……」 ギーシュたちは、女子が一様に自分たちに冷たい眼差しを向けていることに気がついた。 「あたしたちを着せ替え人形みたいにして弄んだ罰がうやむやになったままだわ」 「学院に帰ったら、先生たちに掛け合ってあんたたちの奉仕活動の期間を伸ばしてもらうからね! オールド・オスマンにも処罰を受けてもらいますよ!」 モンモランシーが憤然として言いつけた。それでギーシュたちはガビーン! とショックを受ける。 「そ、そんなモンモランシー! 勘弁してくれ! ぼくらはきみたちを助けたじゃあないか!」 「何が助けた、よ! サイト以外は何もしなかったでしょ!?」 「そ、それはなりゆき上そうなっただけだよ! 助けたい気持ちはぼくたちにもちゃんとあったさ!」 「言い訳しないッ!」 「わしは学院長で、しかも老体じゃぞ!? ちょっとは労わってほしいのう……」 「学院長でも老体でも、何をしてもいいことにはなりませんよ! そもそもの元凶はあなた でしょうが!」 モンモランシーにきつく叱られ、しょんぼりと肩を落とすオスマンだった。 才人の方も、ルイズにこう言いつけられる。 「あんたも帰ったら、わたしたちにご奉仕をしてもらおうじゃない。メイドの格好して働いて もらおうかしら」 「えぇッ!?」 「あッ、それいいですね! ミス・ヴァリエール!」 シエスタはノリノリで乗っかったが、当の才人はルイズに抗議。 「そりゃあんまりだろ! 俺、お前たちのために命懸けで頑張ったのに!」 「それとこれとは別よ! いい加減すぐ調子に乗る癖、ちゃんと反省して改善しなさい!」 ルイズにきつく叱りつけられ、負い目のある才人は反論できずにがっくりうなだれた。 その様子にシエスタたちは思わずアハハハとおかしそうに笑う。 そうして一行は、肩を落とす者と笑う者を交えながら、魔法学院へと帰っていったのであった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
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前ページ次ページ魔法少女リリカルルイズ 砲撃魔法ディバインバスターはいつまでも撃ち続けられるような魔法ではない。 短距離走にも似て、砲撃時間は長くはない。 その限界時間まで撃ち終えたルイズは、レイジングハートを上に向けて顔をしかめた。 「ルイズ?」 「駄目。届いてない」 暴走したギーシュのゴーレムを撃破したとき、城下町で暴れる木を撃ち抜いたとき、どちらもジュエルシードをつかんだ、という手応えがあった。 だが今は限界まで撃ち続けてもその手応えがない。 魔力がジュエルシードまで届いてないのだ。 「なら、もう一回!」 再び魔力を溜め直せばディバインバスターは撃てる。 ルイズは今度こそと再びレイジングハートを構える。 そのとき、またルイズは閃光を感じた。 ジュエルシードの力が高まっているのだ。 その証拠にむき出しのジュエルシードが輝き、その中でゴーレムが急速に復元していく。 復元が簡単な土のゴーレムであっても、あの速度は異常だ。 「その前に撃ち抜いてやるわ」 ルイズの呪文に応じて作られた光球──ディバインバスターの発射台となるそれは、ディバインスフィアと呼ばれる──が徐々に大きくなっていく。 その間もゴーレムは急速に復元していき、ついにはルイズの魔法が完成する前に復元を終えた。 そしてルイズに右腕を向ける。 ルイズは呪文を止めない。この距離ならゴーレムが手を出せるはずがないからだ。 それに砲撃魔法以外にルイズには選択肢がない。 「リリカル・マジカル」 魔法の完成まであと一回というときにゴーレムが突き出した手がぼろりと崩れた。 崩れた腕の中からは黒い筒が現れる。 それを見たユーノが顔色を青くして、なおも力ある言葉を唱え続けるルイズの前に出る。 ディバインスフィアの前にだ。 「ルイズ!駄目だよ!よけて」 ゴーレムが突き出す黒い筒から爆発音がする。 同時にユーノが右手に作り出したシールドと何かがぶつかって爆音をあげる。 「早く、ルイズ逃げて!」 ルイズは訳がわからない。 あのゴーレムが何をしたのか、何が爆発したのかさっぱりわからない。 魔法を使ったのというのもおかしい。即席のゴーレムがそこまで高度なことをするはずがない。 それでもユーノの言うことはわかる。 光るフライアーフィンで宙を滑り、ゴーレムとの距離を開けた。 さらに、ゴーレムの黒い筒から3回音がする。 高速で飛ぶルイズには、ゴーレムが黒い筒から火を噴くおかしな形の火矢を射出したのがわかった。 それは本当におかしな形の火矢という他はない。 鏃の代わりに口を貼り合わせた黒いカップみたいなものがついている。 いくら火矢でもあんな尖ってない鏃では意味がないだろうとは思うが、ユーノが警戒しているのなら、きっと危険なものなのだろう。 その火を噴く矢が三つ、ルイズめがけて飛んで来る。 「な、何よ!あれ」 このままでは火矢に当たってしまう。 ルイズはただ後ろに飛ぶのをやめ、右に滑る。 どんな矢でも横に避けてしまえば当たりはしない。 「えっ?」 ルイズは驚きとともに速度を上げる。 矢は普通、真っ直ぐにしか飛ばない。 だが、この火を噴く矢はルイズが避ける方向に向きを変えて追ってくる。 「何よ、こいつ」 ルイズは自分より少しだけ速い矢を振り切るべく、今度は地面に向けて加速した。 学院の品評会場であわてていたコルベールもゴーレムと、それと戦うメイジに気づいていた。 会場にいる他の生徒や教師と同様にコルベールも空を見上げる。 「あれは……」 コルベールもメイジを追跡する火矢を考えたことはあった。が、今はその研究は止まっている。 「ほう」 コルベールはほんの少しの間、危険を忘れて感嘆の声を上げた。 火矢はルイズを追い、地面に向きを変える。 肩越しにそれを見たルイズは、地面にぶつかる寸前で反転。地面を蹴って今度は急上昇する。 ルイズを追っている火矢も向きを変えてルイズ追い、上昇に転じようとするが、1本は間に合わなかった。 地面に激突し、そして…… かぜっぴきのではなく、北風のマリコルヌは人混みを外れて少し休んでいた。 そろそろ会場に戻ろうとしたところで、空気を切る鋭い音が聞こえてきた。 振り返ると何か白いものが落ちて、すぐに上に飛んでいく。 顔はわからないがスカートをはいた女の子にも見えた。 上に飛んでいく少女にマリコルヌはしばし注目する。 スカートはどんどん高く飛んでいき、マリコルヌは首をどんどん上に傾けていく。 「もうちょっと。ああっ、おしい」 しまいには体をのけぞらせてまで上を見る。 そしてマリコルヌは仰向けに倒れてしまった。 同時に爆発が起こり、土砂がマリコルヌの上に落ちてくる。 「うわ。ぺっ、ぺっ」 顔に落ちた泥をはたいたマリコルヌは見失ったスカートの代わりに足元を見た。 「ひぃっ」 そこにできていた大穴に腰を抜かしてしまう。 ──もし、あのまま立っていたら…… マリコルヌは歯をがちがち鳴らせた。 空にまで及ぶ爆風の圧力にあおられ、ルイズはわずかに上昇した。 その下をルイズほどにはあおられない火矢が二本、ルイズを追い越して走っていく。 ルイズはレイジングハートを前に向ける。 二本の火矢は方向を変えるために速度を落としている。 そしてルイズにはディバインバスターを撃つために溜めていた魔力がまだ残っていた。 「シュートっ」 一瞬の魔力光が火矢の一本を貫き爆発を起こす。 バリアジャケットで防ぎきれない熱い風になぶられ、顔を赤くしたルイズは後ろに飛んだ。 次に襲ってきたのは爆煙を突き破り飛んでくる最後の火矢。 あわてて速度を上げようとするが近すぎる。逃げられない。 「!!!」 ルイズは目をきつく閉じた。 爆発。 闇の中で予感した衝撃は届くことはなかった。 「ユーノ……」 彼女の使い魔が、また火矢をシールドで防いでいた。 衝撃も熱風も届かない。 ルイズはもし直撃したときのことを想像した。 地面にできた穴。バリアジャケットでも防ぎきれない炎。 「あんなのを、防いでいたのね」 ──ユーノが来てくれなかったら 背中が少し寒くなる。ルイズの体が少し震えた。 地上のゴーレムは空を見上げて動かない。 ルイズも少し休みたかった。 爆発のおかげで変な耳鳴りがするし。 ばっさばっさ。 きゅるきゅる。 訂正。耳鳴りではなかった。 いつかと同じように後ろに何かいる。 「ねえ、ルイズ」 空でもすっかり聞き慣れたキュルケの声。 「リリカルイズ」 訂正するタバサ。今日も真顔だ。 「わかってるわよ!で、リリカルイズ。なにやってるのよ」 ルイズはくるり振り向く。 「なにやってるのよ。じゃないでしょ。キュルケ。ここは危ないよの。タバサまで連れてきて。早く逃げなさい!」 「大丈夫よ。魔法少女リリカルイズがぱぱっとやっつけてくれるんでしょ。あのときみたいに」 「できるくらいなら、ぱぱっとやってるわよ」 「なんで?あのときみたいに、あなたの魔法でどーんと行けばいいじゃない」 「なんでって、あのね……えーと」 説明しようとするが詰まってしまう。 ルイズも感覚ではわかっているが、うまくは説明できない。 「それはね」 目が明後日の方向を向くルイズに変わってユーノが説明を始める。 「あのゴーレムを倒すには、ル……」 「ユーノ!」 「あ、うん」 あわてて言い直すユーノ。 「リリカルイズが十分な魔力をジュエルシードに当てないと行けないんだ」 「ジュエルシードって?」 キュルケが首をかしげる。 「あのゴーレムの中にある青い宝石だよ」 「あ、ユーノ!教えちゃっだめ!」 「あっ」 口を押さえるユーノを見て、キュルケがにやにや笑う。 ──ふーん、ジュエルシード。 言われてみれば、城下町のお化け大木にもそんなのがあった。 「ささ、言っちゃいなさいよ。手伝ってあげるから」 キュルケに促されて決まり悪そうなユーノが説明を再開する。 ルイズは止めたかったが、いい方法が見つからないのでキュルケに教えることにした。 「リリカルイズの魔法だったら一回の砲撃だとジュエルシードに十分な魔力が届かないんだ」 「だったら2回撃てばいいじゃない」 「2回目を撃つには魔力を溜めないと行けないんだ。でも、その間にゴーレムは復元してしまう。そしたら、またやり直しになるんだ」 「近づいて撃ったら?」 「あの質量兵器にやられると思うんだ。僕もあれを防ぎ続けるのは難しいと思うし」 「質量兵器って?」 「質量兵器というのはね、えーと」 本を何冊か読んだが、この世界には質量兵器という分類はない。 ユーノはとりあえずのわかりやすい説明を考える。 「大砲みたいな武器のことだよ」 「あれって、大砲なの?」 ルイズが問いただす。爆発でとばしているみたいだから、そうといえないこともないかもしれない。 「うん。でも、あのタイプは誘導の機能はないはないはずなのに。ジュエルシードの影響かな」 ユーノはそう言って考え込む。 キュルケも手伝うといってしまったので考えてみるがどうもいい方法が思い浮かばない。 遠ければ魔力が届かない。近ければ魔力を溜める間に大砲の的になる。 キュルケは自分の火の魔法でゴーレムを爆破するというのも考えたが、とてもではないが十分な威力はありそうにない。 「私に考えがある」 タバサが唐突につぶいた。 前ページ次ページ魔法少女リリカルルイズ
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第六十二話 新造探検船オストラント号 すくらっぷ幽霊船 バラックシップ 登場! 六千年の間、国家間のいさかいやエルフへの遠征はあれど、平和と秩序を保ち続けてきた世界・ハルケギニア。 だがその平和は、突如この世界に襲来した異次元人ヤプールの侵略によって、無残にも砕け散った。 才人とルイズは、ウルトラマンAの力を借り、ヤプールの侵略を食い止め続けてきたが、時が経つにつれて予想も しなかった事態が起きてきた。ヤプールの侵略による混乱につけいるかのように、この世界の人間たちの中にも 不穏な動きを見せ始める者も現れたのだ。 虚無の力を狙い、何度も卑劣な攻撃を仕掛けてきたガリアの王ジョゼフ。かつて地球で、怪獣頻出期の混乱に つけいって多くの宇宙人が侵略をかけてきたように、彼の存在を皮切りにロマリアも動き出した。 ワルドを傀儡とした何者かの陰謀は撃破したものの、同時に多くの謎も残した。 誰が、何の目的を持って人間の怪物化をはかったのか? すべては闇の中に消えた。 代わりに残ったのはルイズの新たなる虚無の魔法の覚醒。瞬時に別空間への転移を可能にする呪文・テレポート。 完全に成功すると思われたワルドの計画を頓挫させたこの魔法は、さすがに伝説の系統にふさわしい驚異的な 効果を発揮した。だがその反面、連続する虚無の覚醒はこの世界に迫り来る暗雲の厚さをも想像させた。 地下に潜んで強大化の一途をたどる数々の悪の勢力、もはや躊躇している時ではないとアンリエッタは決断した。 ジョゼフや、まだ影もつかめない謎の勢力も確かに脅威だ。しかし彼らの暗躍する土壌となり、この世界を狙う 最大の敵はヤプールにほかならない。生物の邪悪な思念・マイナスエネルギーを糧とするヤプールのパワーアップを 止めるには、この世界で六千年間続いてきたエルフとの不毛な争いに終止符を打つしかないのだ。 アンリエッタは、現在唯一エルフとのつながりを持ち、なおかつエルフが潜在的に恐れている虚無への敵対心を 消し去れる可能性を持つルイズに白羽の矢を立てた。 しかし前途は険しい。エルフの大多数は人間を蛮人と呼んでさげすんでおり、その強力な武力を持って、ためらう ことなく攻撃を仕掛けてくるだろう。しかもエルフの国、いまだ人間が到達したことのないはるか東の果てに向かうためには、 通常の手段では不可能だ。 だがその不可能を可能にするため、現れたエレオノールとコルベールは希望の名を告げた。 「行かせてあげるよ君たちを、私たちの作った新型高速探検船『東方(オストラント)号』でね!」 エレオノールとコルベールの語る『東方号』とは何か? ハルケギニアを狙う、飽くなき邪悪の増長に反旗を掲げるために、人間側の逆襲が始まろうとしていた。 戦いの夜が明けて、ラ・ロシュールの街は最大最後の熱狂の渦の中にあった。この一ヶ月、トリステインで盛大かつ 華麗な婚礼の儀をあげてきたアンリエッタとウェールズ夫妻が、今日いよいよもうひとつの母国であるアルビオンへと旅立つのだ。 昨夜のウルフファイヤーとの戦闘はかん口令が敷かれ、一般大衆はほとんど知らない。豪奢に飾られたお召し艦が 桟橋を離れ、夫妻はその脇をカリーヌとアニエスに護衛されながら、見送りの人々へと感謝の手を振る。 「みなさまありがとう。アルビオンとトリステインの変わらぬ友好を築き上げるため、わたしたちは行ってまいります」 陽光を受けてきらびやかな輝きを放っているかのような夫妻の門出だった。見送る人々もそれを受けて、喉も 枯れんばかりの大歓声とともに見送る。桟橋の上には国に残る重臣や各国の大使、世界樹のほかの枝にも 一目見ようと多くの人々があふれ、世界樹の根元やラ・ロシュールの建物の屋上などにも手を振る人は尽きない。 しかし、その中にルイズたちの姿はなかった。そのころ才人、ルイズ、ティファニア、ルクシャナの四人はすでに街を 離れて、銃士隊の一個小隊とともに南へ向かっていたのである。目的地はラグドリアン湖の東方にある分湖の 対岸にある造船所街。ラグドリアン湖そのものは、ガリアとトリステインの関係を良好に保つためと、水の精霊への 敬意を込めて軍事施設等の建設は条約で禁止されているが、その奥にある河川や小さな湖は両国共に存分に 利用していた。 「着いたぞ、降りろ」 街の入り口のある馬車駅で、四人は乗ってきた馬車から降ろされた。ここでは軍備増強中のトリステイン空軍の 軍艦が続々と建造されているので、木材や鉄鋼を搬送する荷車や人夫でとてもにぎやかだ。最近では、先日の 観艦式でお披露目された巡洋艦なども、ここで建造されたものが数隻混じっている。 才人は、船台上でマストを立てられている軍艦や、道を荷車に載せていかれる大砲を見て感嘆の吐息を漏らした。 軍備は理想的な平和主義者からしたら悪の象徴と言われる。確かにそれは一端の真実であるのだが、この世には 他者のものを奪い取って恥じず、むしろそれを誇るような人間や国がいるのも事実だ。人間という生物の目を 逸らしてはいけない愚かしい一面だが、この世が完璧な理想世界とは程遠い以上、一定以上の軍事力は国家に とって必要とされる。 もちろん、戦力の拡充のしすぎは財政の悪化を呼び、守るべき国を戦争に駆り立てるという本末転倒な事態を 招く。なにせ軍隊とは一粒の米も、一滴の酒も生み出さない、いるだけで金食い虫となる存在なのだ。それを 防ぐためには、為政者の拡大の限界を見極めて手を引く冷静な判断力が必要となる。来年早々に女王となる アンリエッタの重要な課題となるだろう。 「やあ諸君、よく来たね。歓迎するよ」 「全員無事到着した。案内を頼む」 才人たちの降り立った馬車駅には、コルベールとエレオノールが先に来て待っていた。二人はラ・ロシュールで 才人たちにおおまかな説明をした後に、出迎える準備をすると言って竜籠で一足早く帰っていたのだ。 こちらの人員は、才人たち四人のほかは「ルイズたちの手助けをしてやってください」と、アンリエッタ直々に 命令を受けた銃士隊の一個小隊三十名で、指揮官にはミシェル。本来ならば近衛部隊である銃士隊の副長が 残るなどは考えられなかったが、アニエスとアンリエッタの二人の同時指名で決定されたのである。 なお、この人事を後で耳にしたとき、当初ルイズが渋い顔をしていたが、主君からの命令とあっては言いだてもできなかった。 そんな娘の様子を見て、母カリーヌは無表情の仮面の下で嘆息していたが、娘はむろん知る由もない。 コルベールとエレオノールの出迎えを受けた一行は、そのまま二人の案内で造船所内を進んでいった。 ここはトリステイン軍の直轄の施設なので、許可のない者は立ち入りできないために、さすがに奥に行くほど 物々しくなっていく。 ここで、例の『東方号』という船を建造しているのだろうか? 才人は立ち並ぶ数々の軍艦や輸送船を眺めながら 思った。王宮ではコルベールは「ここではどこで誰が聞き耳を立ててるかわからないからね」と、才人たちは『東方号』に ついてほとんど具体的な説明を受けていなかった。わかっていることは船名と、それが高速探検船という聞きなれない 別名を持つということだけ。 ルイズも、コルベール先生とエレオノール姉さまとは、なんとも珍妙な組み合わせだと不思議に思った。二人に接点が あるとすれば教鞭をとっていることと、アカデミーのつながりが思いつくけれど、二人が揃って仕事をしているとは知らなかった。 まさか、この二人できてるってことは……ないわねと、ルイズは姉に向かってけっこうひどいことを思うのだった。 さらに疑問を深めているのがルクシャナである。知識の虫である彼女は、サハラを越える能力があるという新型船とやらに 大いに興味をよせていたが、ここに来て尋ねても、コルベールは後のお楽しみだと教えてくれない。コルベールは自信満々な 様子だが、ルクシャナも人間への蔑視を完全に捨てたわけではない。これまで何百回、思いつく限りの方法を使って 攻めてきたくせに、一度もサハラを踏めなかった蛮人が作った船に、何十という障害と妨害を突破してサハラを越える という、前人未到の偉業をおこなえる力があるのか? 自然に才人やルクシャナは、表情に疑問の色が浮かんでくるのを抑えらなくなっていった。すると、教師としての 面目躍如か、敏感に彼らの不満を感じ取ったコルベールはようやく口を開いた。 「いや、もったいぶってしまってすまないね。どうも物事にいらない前置きをつけてしまうのは私の悪い癖だ。そのせいで 授業がつまらないと常々言われるのにねえ。サイトくん、私がいろいろな未知なるものを見たいと思っているということを 前に言ったね。だから私は手当たりしだい、あらゆる手段を使って未知を求め、さらなる未知へ挑戦しようと試みてきた。 その答えのひとつが、君の見せてくれた、あの”ひこうき”だ。あれほどのものは、我々の技術では到底つくれない。 しかし、私はあきらめたくなかった。そのとき、興味を示してくださったのがミス・エレオノールだった」 「ええ、私も正直あんなものは見たこともなかったわ。でも、一時は興奮したけど私はすぐにあれは再現不可能だと 結論を出したわ。それをこのハゲ頭ったら本気で自分でも作ろうなんて考えて……バカとしか言いようがないじゃない」 「はは、でもあなたが協力してくれなければ、私の夢はおもちゃで終わっていたでしょう。学者の本能というですかな?」 「勘違いしないで。婚約がふいになって、たまたま式の費用が浮いてただけよ」 エレオノールは、ぷいっと横を向いてしまった。こういうところはさすがルイズの姉だけあって、よく似ている。しかし、 まだ疑問の核心にコルベールは答えていない。東方号とは結局なんなのか? 知りたいのはそれだ。じらされて いらだつ才人たちに、コルベールははげ頭にわずかに残った髪をばつが悪そうにかいた。 「いやいやすまん。またまた悪い癖が出てしまった。しかし、もう一言だけ言わせてもらうとしたら、私はサイトくんの おかげでハルケギニアの外の世界をどうしても見てみたくなったのだ。そして、もう待ってもらう必要はないよ。なぜなら、 ここが目的地だからね!」 コルベールは足を止め、手を高く掲げて見せた。そこには、才人たちがまるで小人に見えるような巨大な建物が、 威圧するようにそびえていた。 しかし、それは単に大きな建物ではない。船を建造するための、造船施設の見せる氷山の一角に過ぎないのだ。 この中に『東方号』が……才人たちはごくりとつばを飲み込むと、コルベールに続いて施設に足を踏み入れていった。 天幕で覆われた、全長二百メイルほどの船台。他の軍艦や商船が建造されている船台とは明らかに様相が異なり、 外からは内部が一切うかがい知れないようになっている。しかも入り口にはラ・ヴァリエールのものと思われる私兵が、 入場者を厳しくチェックしており、軍艦並みの警戒厳重さを見せていた。 入り口で誰かが化けていないか、魔法で催眠にかけられていないかを検査されると、ようやく分厚い鉄ごしらえの 門が開いて一同を受け入れた。内部はまるで東京ドームのように広大で、一同はここでなにが作られているのだと 息を呑む。しかし内部は天幕のおかげで薄暗く、なにやら巨大なものが鎮座しているのはわかるけれど、全体像を 把握することはできなかった。 コルベールは一同にそこで待つように言い残すと、エレオノールとともに壁に取り付けられたなにかの装置の前に立った。 「待たせてすまなかったね。すでに艤装は九割五分完了している。本来ならば、一〇〇パーセントパーフェクトに なってから動かしたかったが、現在でも航行・戦闘ともに支障はないはずだ。さあ見てくれ、これが私の夢の第一歩であり、 君たちを運ぶハルケギニア最速の船、『東方号』だ!」 スイッチとともに天幕の中に白い明かりが満ち満ちる。一般に使われている魔法のランプの仕組みを大規模に したものであるらしいが、悪いけれどエレオノールのそんな説明は耳に入らない。才人たちの目の前には、想像を 一歩も二歩も超えた異形の船が鎮座していたからだ。 「こ、これは……船、なの?」 全容を眺めたルクシャナが思わずつぶやいた。彼女の知識層には、専門外の事例ながらエルフの艦船について おおまかに記録されており、人間たちが使う船についても文献で見てきたが、このような形式の船は初めて見る。 いや、正確に言えば船の形はしている。船首から船尾までの設計様式はハルケギニアでポピュラーな形式の 帆走木造船で、それだけ見ればなんの変哲もない。しかし異彩を放っているのは、舷側から大きく側面に張り出した 翼にあった。 通常、風石で浮力を得るハルケギニアの空中船は、地球の木造帆船に似た船体に鳥のような翼を取り付ける。 そのため地球育ちの才人などからすれば船と白鳥が合わさったような印象が持て、さすがファンタジーだと妙な 感想が出る優美な姿をしている。 だが、この船に取り付けられている翼は優美さとは無縁なものだった。地球の航空機のような直線と曲線でできた、 強いて言うならジャンボジェット機のそれに似た金属製の翼が取り付けられていた。差し渡しは一三〇メイルはあろうか、 エルフの世界にも鋼鉄軍艦は存在するけれど、こんな形の翼はどこにもない。 それだけではなく、その翼には後ろむきに明らかにプロペラとわかる巨大な装置が取り付けられていた。この翼に、 あのプロペラの形……才人の中にあった予想が、一瞬で確信に変わって口からこぼれ出る。 「先生! こいつは、おれのゼロ戦を!」 「ああ、そのとおりだ。この船は君が持ってきてくれた”ひこうき”を研究して、私なりに再現したものだ。従来の船では 風任せで、翼は姿勢制御くらいの役目しか果たせていなかったが、この船は違う。風石で浮遊するところは同じだが、 あの翼が巨大な浮力を発生させて風石の消費を抑えてくれる。そして、なによりも目玉があの両翼に一基ずつ 配置された”えんじん”から突き出た風車が、この船に圧倒的な加速を与えてくれるはずだ」 「すげえ……先生、すごすぎるぜ!」 才人はまさしく天才を見る目でコルベールに熱い視線を送った。あのゼロ戦一機から、こんな巨大な船を作り上げて しまうとは常人のなせる業ではない。 「いやあ、そうしてほめられるとむずがゆいというか……はは」 得意そうに笑うコルベール、そこへのけ者にされていたエレオノールが不満そうに割り込んできた。 「ちょっと、あなただけの功績みたいに言わないでちょうだい。この船の建造費に私がいくら出したと思ってるの? それに、 この船の翼を支えるための百メイル以上の鋼材の製作、私をはじめアカデミーのトライアングル以上のメイジが 何人がかり必要になったとおもってるの?」 「もちろん感謝しているさ。私はえんじんは作れても、船にはてんで無知だからね。設計図の製作から実際の建造まで、 下げる頭が万あっても足りない思いだ」 「ふん、あんたの頭を見てありがたがる人間がいたらお目にかかってみたいわ。まあ、アカデミーが全壊して、施設が 再建できるまで研究員たちを遊ばせておくこともないし、メカギラスやナースの装甲を研究した成果も試したかったから、 いい機会ではあったけどね」 なるほどと、ルクシャナは納得した。トリステインの冶金技術では、百メイルを超えて、なおかつ強度のある鋼棒の 製作はメイジの技術を持ってしても不可能だが、宇宙人のロボット兵器に使われていた超金属を研究して、それに 対抗できる金属の作成を前々から図っていたのか。 しかし、研究者であるルクシャナは二人の説明と東方号の外観から、すでにいくつかの疑問点を抱いていた。 「ところで、えんじんだっけ? あのでかぶつをどうやって動かすの? 見るところ、羽根の直径だけでも十メイルは ゆうにあるわ。あんなものを、推力を生み出せるほど回すには相当な力が必要なはずよ」 するとコルベールは、よくぞ聞いてくれたとばかりに満面の笑みを浮かべた。 「よい質問です。あのえんじんの中には、石炭を燃やす炉と、その熱量を使って水を沸かし、発生する水蒸気を閉じ込めて 強力な圧力を生み出す釜が入っています。羽根を動かす動力は、その圧力を利用します」 「水蒸気……そんなものを利用するの!?」 「なめたものではありませんよ。水を入れてふたをがっちりした鍋を火にかけると、やがて鍋をバラバラにするくらいの 爆発を起こす力が出るのです。本当は、ひこうきのえんじんに使われていた、油をえんじんの中で爆発させて圧力を得る 仕掛けのほうが小さくて済むのですが、機構が複雑で精密すぎて現在の私の技術では再現は無理でした。しかし、 この水蒸気式のえんじんでも、相当な力は発揮できるはずです。私はこれを、水蒸気機関と名づけました」 自信満面でコルベールは言った。しかし、ルクシャナはまだこの船には、どうしても聞かねばならない難点があることを見抜いていた。 「たいした自信ですね。でも、さっきから聞いていれば、あなたの説明はすべて”はずだ”ばかり。もしかして、この船は まだ一度も飛んだことがないんではないですか?」 「見抜かれたか、さすがアカデミーの逸材と言われるだけの方だ。ご明察どおり、この『東方号』はまだ飛行テストも おこなっていない未完成品だ。いや、本来ならば『東方号』と名づけるのは、この後の船になるはずだったのだ」 「つまりこれは、本来は新型機関を試すための実験船だった?」 「そのとおりだ。私たちはこの船を使って、あらゆる実験をおこない、そのデータを元にして完成品の東方号を建造する 予定だったのだ」 自信から一転して、苦渋を顔に浮かべてコルベールは言った。するとエレオノールも気難しそうな顔で東方号を見上げる。 「軍から先の内戦で姫さまをアルビオンにまで運んだ、高速戦艦エクレールの実戦データももらってるけど、それでも この船からすれば旧式に入るわ。なによりこの船は、建造期間の短縮をはかるために、船体は建造中だった高速商船の ものを流用してあるから、高速飛行をしたときに船体がもつかは未知数よ。それに、エルフの艦隊に迎撃を受けたとしたら、 当たり所によっては一発で沈没する危険もはらんでるわ」 ぞっとすることを言うエレオノールに、才人たちは思わず顔を見合わせた。しかしそれでもコルベールは言う。 「しかし現在、エルフの国に到達できる可能性が少しでもあるのはこの船しかない。姫さまは、その可能性を信じて 我々に指名をくださった。研究者としては失格かもしれんが、私も万全を待っていては手遅れになると思う。だから私は、 暖めていた『東方号』の名をこの船につけたのだ!」 断固として言い放ったコルベールの迫力に、才人たちはのまれた。研究者として、不完全な代物に教え子たちを 乗せるには相当な苦渋があったはずだ。恐らく、出撃を命じたアンリエッタとの間にも激論があったことだろう。 それでも動かすことを決めたからには、尋常な覚悟ではない。 「僭越ながら、私は船長としてこの船に乗り込む。その大役ゆえに、船が沈むときは運命を共にする覚悟で望むつもりだ。 ん? サイトくん、そんな顔をするな。それくらいの覚悟で望むということだよ」 からからとコルベールは笑って見せた。才人やルイズはほっとしたものの、いざとなったら殴り飛ばしてでもコルベールを 船から降ろす必要があるなと、別の覚悟を決めた。 新造探検船オストラント号……それはコルベールがハルケギニアの外にある、あらゆる未知への好奇心を形にした 鋼鉄のうぶ鳥。早産を余儀なくされたこの鳥が、見かけだけ派手で飛べない孔雀で終わるか、それとも大空を支配する フェニックスとなるかは誰にもわからない。 それにまだ、この船には飛び立つためにもっとも重要なものが欠けている。それをミシェルは指摘した。 「ミスタ・コルベール、あなたの決意のほどはわかった。しかし、これほど大規模な仕掛けを施された船を誰が動かすのだ? 機密保持のために空軍の水兵や一般の水夫は借りられない。ただ動かすだけなら、我ら銃士隊一個小隊三十名いれば 可能だろうが、未完成な船で戦闘航行しながら進むのはさすがに不可能だぞ」 強靭な心臓があって類まれな翼を持つ鳥も、体の中を流れる血液がなくては羽ばたくことはできない。そう言うミシェルに、 コルベールはそのとおりだとうなづいた。船は巨大で精密な機械だ。帆を操り、舵をとり、周囲を見張り、風を読み、 この船の場合は機関制御の複雑な工程も加わるので、三十人ではどうやりくりしてもギリギリだ。それだけではなく、 厨房で働く者もいるし、戦闘を不可避とすれば兵装を操り、魔法をぶっ放す戦闘要員がいる。しかもまだ終わらない、 負傷者を治療する者や損傷箇所を応急修理する要員も大勢必要だし、それらの人員が負傷したときに交代する要員もいる。 つまり、戦闘艦とはまともに運用しようと思ったら膨大な人間を必要とするのだ。たとえば百メートルをわずかに超える 程度の駆逐艦でも、乗員は二百名を軽く超える。この東方号はどう見積もっても、六十名から七十名の船員が必須となる。 銃士隊と才人たちでは半分しかいない。むろん、片道だけで生還を帰さないのなら別だが、これは特攻ではなく無事 到達して帰ってくることが絶対条件の作戦だ。 ところがそれをコルベールに問いかけようと思ったとき、コルベールはにんまりと笑った。そして、船に向かって手を上げると叫んだ。 「おーいみんな! もういいだろう、そろそろ出てきたまえ!」 「あっ! 先生、もう少しじらしてから出ようと思ってたのに。しょうがない……やあサイト、待っていたよ!」 「あっ、お、お前!」 聞きなれた声と、タラップからきざったらしくポーズをとって降りてきた金髪の少年を見て、才人は叫んだ。 「ギーシュ! それに、お前らも」 薔薇の杖をかざして現れた三枚目に続いて、船内から続々と現れた面々を見て才人やルイズは目を疑った。 レイナールにギムリ、水精霊騎士隊のメンバーたち。それだけではなく、モンモランシーや少年たちと懇意の少女たちもいる。 これはどういうことかと仰天する才人たち。ギーシュはその顔がよほど見たかったのだろう、得意満面で説明をはじめた。 「なぁに、簡単なことだよサイト。ぼくらも、姫さまから密命をいただいてここに参上していたのさ。事情はすでに聞いているよ。 ぼくら水精霊騎士隊の総力をあげて、君たちに協力しようじゃないか」 「姫さまが……てことはお前ら、この船がどこに行くのかも知ってるのかよ?」 「むろんさ。目指すははるかな東方、エルフの国。そちらの麗しいお嬢さん方がエルフだということも聞いているさ。 それにしても、エルフとはもっと恐ろしげなものだと聞いていたが、これはなんと美しい! お嬢さん、昨日は話す時間も なかったが、よろしければお名前など……」 「教えてもいいけど、あなた死ぬわよ」 「へ?」 ルクシャナの視線の先を追ったギーシュは、そこに大きな水の球を作り上げて、引きつった笑いを浮かべているモンモランシーを見た。 「ギーシュ、さっそくバラの務めとはご苦労なことね。し、しかも相手がエルフでもなんて、節操なしにもほどがあるわよ!」 「ま、待っ!」 言い訳は言葉にならなかった。魔法の水の球に頭を呑みこまれ、ギーシュはおぼれてがぼがぼともがいている。 いったいなにがしたかったんだあいつはと、彼の仲間たちはおろか、才人とルイズや銃士隊も呆れて助ける気も起きない。 しかしこのままでは話が進まないので、隊の参謀役のレイナールがあとを継いだ。 「やれやれ、隊長がお見苦しいところをお見せしてすいません。ま、サイトももうだいたい見当がついていると思うけど、 見てのとおり東方号にはぼくらがクルーとして乗船するよ。そのために、姫さまはぼくらに正式に水精霊騎士隊の称号を 与えてくれた。つまりぼくらは今やトリステインの正式な騎士だ。これで頭数は銃士隊の皆さんと合わせて七十人を超える。 定数は十分満たすはずだ」 「お前ら、だが!」 これは今までとは危険の度合いが違う。それがわかっているのかと才人は叫びかけた。だがレイナールは才人の 言葉を手をかざして防ぎ、ギムリとともに言った。 「おっとサイト、やぼは言わないでくれよ。世界が消えるって瀬戸際だ。それにぼくらは元々貴族、いざというときの覚悟は できている。それに第一、もしも君がぼくらの立場でも同じ事をしたはずさ。友達だものね」 「危ない橋だったら、もういっしょに何度もわたってきたじゃんか。二度も三度でもピンチには杖を持って参上するのが、 貴族の責務であり名誉だぜ。な、戦友」 「っ! お前ら」 才人は騎士隊のみんなの友情に、才人は感動のあまり目じりをぬぐった。困ったときに助けに来てくれる奴らこそ、 真の友だというけれど、こいつらはまさに真の友だ。 涙を流す才人に、三途の川を渡りかけているギーシュ以外は誇らしげな笑みを送った。 が、ここまでであれば美しい友情物語でしめられたものを、ギムリが余計な口をすべらせた。 「うむ、サイトにだけいい思いをさせ続けるのは不公平だし、それに我々水精霊騎士隊にはギーシュ隊長のほかは まだまだ独り身が多い。この機会を逃すわけにはいかないからな」 「は?」 涙が一瞬で枯れて、後悔が怒涛のようにやってきた。なるほど、騎士隊の男たちの視線を注意深く追っていくと、 かっこつけている端で銃士隊のうら若い肢体に向いている。熱血展開で忘れていたが、青春とは思春期のことでもあった。 「なるほどな。お前らの本音がよーくわかった。人をだしに使いやがって、なーにが友情だ、この野郎ども」 「うっ! し、しまった。つい口が!」 「ギムリ! ご、誤解しないでくれよサイト。姫さまから命令があってぼくたちが参上したのは本当さ。それに、 君たちの助けになりたいのも嘘じゃない。ぼくらが何度も肩を並べて戦った、あの思い出を忘れたかい?」 必死に弁明するレイナールや、その後ろでかっこよさを失っている騎士隊の連中を、才人たちは白い目で見つめた。 銃士隊の子女たちはさっそく身の危険を感じて敵意のこもった視線を返しているし、特にルイズはゴミを見る目つきで、 睨まれている男たちのプレッシャーはハンパなものではない。 「まったくもう、あなたたちの頭の中身は全員ギーシュと同レベルね。それでここまで来るとは恐れいるわ。でも わかってるの? 銃士隊は平民の部隊なのよ。あなたたち貴族の自覚あるの?」 「なにを言ってるんだい、サイトは平民だけどルイズやおれたちとずっと前から対等だったろう。君はいまさら昔の事を むしかえすつもりかい?」 「そうそう、美しい婦女子に身分の差など……もとい、それに姫さまはぼくらに対して、貴族と平民のかきねを壊してくれと お命じになられたのだ。魔法衛士隊の中にはすでに彼女たちと交際を持ち始めている者もいるそうだ。よってぼくらが 銃士隊と対等に肩を並べても、なんら問題はない」 「視線が泳いでるわよ、お題目は立派だけどごまかそうとしてるのが見え見えじゃないの」 女の勘はごまかせなかった。少年たちを見る目がさらに冷たくなり、射殺されそうなくらい痛くなる。 それでもレイナールやギムリはまだましなほうだったかもしれない。さらに不幸なのは、ギーシュのほか数名いる 彼女を連れてきた少年たちだ。彼氏と危険を共にするロマンチックな夢を抱いていた彼女たちは、殺意すらこもった 目つきで、震える手で杖を握っている。 まさに四面楚歌、このままほっておけば水精霊騎士隊の少年たちは視線の圧力で押しつぶされて消えたかもしれない。 そこへ、ミシェルがため息混じりに告げた。 「ふぅ……だが猫の手も借りたい今、貴重な頭数であることに違いはないか。お前たち、半端な覚悟ではつとまらんぞ。いいか!」 「は、はい!」 よどんだ空気を吹き払う一喝に、少年たちは本能的に従った。この威圧感はさすがアニエスの右腕を勤めるだけのことはある。 ミシェルはさらに部下たちに、「せいぜい小間使いができたと思ってしごいてやれ」と、命じた。そのとき彼女たちが「了解」 という一言と共に浮かべた冷徹な笑みに、浮ついた気持ちでいたギムリたちは背筋が凍りついた。 それを見て才人は、こいつらこれから大変だなと、同情的な視線を送った。銃士隊はそこらの女性とわけが違う。なめて かかれば並の男など食い殺してしまう強さを持っている。きれいな花にはとげがあるぞ、まあ自分たちで選んだ道だから、 誰を恨みようもないことだが。 ただ、才人はそう思いながらも、ギーシュたちを悪く思ってはいなかった。 ”お前らはほんと昔から少しも変わってないな。そういえば、トリスタニアの王宮で寄せ合い騎士ごっこの水精霊騎士隊が できて戦ったときも、銃士隊といっしょだったっけ。あんときも中途半端にかっこつけて、けっきょく決まらなかったんだよなあ” 戦友たちとの思い出は、才人にとってもかけがえのないものだった。 王宮でバム星人と戦ったとき、ラグドリアン湖でスコーピスと戦ったとき、学院がヒマラとスチール星人に盗まれてしまったとき。 どれも今思い返せば懐かしい。死闘だったこともあれば、バカバカしかったこともある。けれど、どのときもギーシュたちは 自分を身分の違いなど関係なく、仲間として向き合ってくれた。そして今回も、動機の半分は不純ながらも危険を顧みずに 駆けつけてきてくれた。 こいつらとなら、またおもしろい冒険ができるかもしれない。そう思った才人は、笑いをこらえながらギムリたちに言った。 「よかったなお前ら、トリステイン有数の騎士のみなさんにしごいてもらえる機会なんてそうはねえぞ」 「サイト! 君せっかく来てやったのにそれはないんじゃないか」 「むしろおれがついでのくせによく言うよ……けどま、考えてみりゃずいぶん久しぶりじゃねえか? 水精霊騎士隊が 全員集合するなんてよ」 不敵に笑った才人に、ギムリやレイナールははっとしたように思い返した。 「そうか、言われてみればおれたちが全員そろってなんて随分なかったな」 「おいおい、それもこれもサイトが自分ばっかりで冒険に行ってるからだろ。おかげでこっちは平和でいいが、退屈で 仕方がなかったんだぜ。でも、今回はおいてけぼりはなしだよ」 「わかってるって、しかも今回は世界の命運がかかった大仕事だ。頼りにしてるぜ、戦友たち!」 ぐっと、握りこぶしから親指を突き出すポーズをしてみせた才人に、ギムリとレイナール、それに水精霊騎士隊の 仲間たちはそれぞれ同じポーズをとった。 「おう! まかせとけって」 死線をさまよっているギーシュ以外の全員が、才人に応えて叫んだ。 その熱血な光景に、ルイズやモンモランシーはこれだから男ってのは暑苦しくていやねと思い、ティファニアは 男の子ってみんなこうなのかなと、間違った認識を持ち始めていた。 でも彼らは真剣だ。真剣におちゃらけて、ふざけて、世界を救いに行くつもりなのだ。 そんな規格外のむちゃくちゃな騎士隊がほかにあるだろうか? 銃士隊の隊員たちは、自分たちも常識外れの 軍隊だけど、それ以上がいるとは思わなかったと呆れた。だが同時に、トリステイン王宮以来となる彼らとの共同戦線が なかなか面白いものになりそうだと、悲壮な決意の中に楽しさの予感を覚え始めていた。 とてもこれから、一パーセントの生還率も認められない死地に赴こうとしている者たちには見えない。ルイズたちは 呆れるが、男同士の友情は暑苦しさがあってなんぼなのだ。その熱気は伝染し、コルベールやエレオノールも苦笑を 浮かべ、ミシェルはこれも才人の人を変える力なのかなと思った。 「サイトには関わった人間をよい方向に変えていく力があるのかもしれないな。お前の前では、貴族だとかなんとか、 いろんなかきねがどんどんどいていく」 どこの国の人とも友達になろうとする気持ちを失わないでくれ……ウルトラマンAの残した精神が才人の中で 息づいているのを彼女は知らない。けれど、その優しさがあるからこそミシェルは才人のことが好きであり、そのおかげで 自分以外の人を救い、愛することを思い出すことができた。 そして今、自分はそれらを与えてくれた人を助けるために共に旅立とうとしている。本来ならば許されないことのはずだが、 それを命じたときにアニエスとアンリエッタはこう言ったのだ。 「ミシェル、これはトリステインはおろかハルケギニアの命運を左右する重要な任務だ。私や烈風どのが姫さまから 離れるわけにはいかん以上、指揮官の適任はお前しかいない……というのは建前だが、いいかげんサイトといっしょに 冒険する特権をミス・ヴァリエールだけに独占させておくことはあるまい。お前はもう充分すぎるほど働いた。そろそろ 自分の幸せに貪欲になっても誰も文句は言わんころだ。対等な立場で、思いっきり勝負して来い!」 「そうですわよ。ルイズがわたしの親友だからって遠慮することはありません。誰が誰を好きになろうと、それは 自由ですもの。いってらっしゃいなさいな、でないと一生悔いが残りますわよ」 はてさて、世界の危機も利用する姉バカと、小悪魔根性を発揮するアンリエッタにも困ったものである。けれども、 こうでもしなければ才人の気持ちを思うあまり、ルイズに遠慮して一歩引いてしまうミシェルはいつまでたっても 幸せをつかめないだろう。不謹慎にも思えるアニエスとアンリエッタの胸中には、それぞれ妹を思うが故と、自分と 同じ愛に生きる者への激励が込められていた。 だが、それでもミシェルは逡巡した。 「でも、サイトはミス・ヴァリエールのことが好きです。私の思いはもう伝えました、今さらあの二人の間に余計な 亀裂を入れたら、恩を仇で返すことになってしまいます。私は今のままで、十分幸福ですから……」 恋に臆病というよりも、愛してしまった人の幸せを思うがゆえの苦渋、しかしアンリエッタは言う。 「ミシェルさん、サイトさんの幸せを第一に思うあなたの心は、とても純粋で尊いものですわ。でも、待ってるだけでは 恋は実りませんわ。サイトさんがルイズのことを好きなら、あなたはサイトさんの”大好き”をもぎとってみなさい。 明日の幸せは、自分の力で勝ち取るものですよ」 ウェールズとの、障害に埋め尽くされた恋路を一心不乱に駆け抜けてきたアンリエッタの言葉は虚言ではなく重かった。 それに、これはルイズのためでもある。恋人はゴールではなく通過点に過ぎない。恋が恋のままで終わるか、 愛に昇華するかはこれからの二人次第。それに気づかないままでは、いつか取り返しのつかない破局を招くだろう。 だからこそ、悔いを残さぬように思い切りぶつかってこい……誰がなんと言おうと、人生は一度きりしかないのだから。 けれどミシェルは、命令は受諾したものの、最後まで二人の応援に「はい」とは言わなかった。しかし彼女の胸中には、 アンリエッタの言葉によって、新しい胸のうずきも生まれ始めていた。 ”サイトはミス・ヴァリエールが好き……でも、わたしがもっと好きになってもらう。そんなこと、考えたこともなかった” できるのか? そんなこと、怖くて今は考えることはできない。けれど、才人が好きだという自分のこの気持ちは消せない。 だったら、才人とともに旅することでその答えを見つけに行こう。 ミシェルは、自分についてきてくれた三十人の仲間を振り返った。自分は彼女たちの命も預かっている。けれど同時に 彼女たちも自分の思いは知っている。きっと、困ったら手助けするようにとアニエスから密命もくだっていることであろう。 まったく、おせっかいな姉や仲間を持ったものだとつくづく思う……でもそれが心地よい。 およそ二十年の人生の中で、半分の十年は暗闇のふちにいた。そこから光の中に引き上げてくれたあの人に わたしは恋をして、ずっとそばにいたいと願っている……偽らざる思いを胸にして、ミシェルは才人から送られた ペンダントのロケットをぐっと握り締めた。 ”サイト、お前と歩む未来をわたしも欲しい。もしも、これに肖像画を入れることがあるとしたら、それはわたしとお前、そして……” 目をつぶり、未来にミシェルは夢をはせる。からっぽのロケットを満たす絵に描かれているであろう、幸福に満ちた笑みを 浮かべた自分と才人と、顔も知らないもうひとり。へその上から腹をなで、ミシェルはこの旅に必ず生きて帰ろうと誓った。 若者たちの思いはつながり、彼らを乗せてはばたく翼はついに全容を現した。 新造探検船オストラント号……その翼はいまだ未熟であり、乗り込むクルーたちも未経験の若者ばかりだ。 しかし彼らの士気は旺盛で、死を覚悟しても生還をあきらめている者はひとりもいない。むしろお祭り気分でちょっと 行ってくるかという気軽さの者たちが半分だ。 エルフとの和解、それがどんなに困難でもヤプールの邪念からハルケギニアを救う方法はほかにないのだ。 だが、ヤプールの先を超して行動しようとする彼らの思惑に反して、ヤプールは次段の作戦を着々と進めていた。 時空を超えて位置するもうひとつの宇宙。才人の故郷、地球。 このころ怪獣軍団による全世界同時攻撃による混乱も収まって、世界は一応の平穏を取り戻していた。けれど いつまた襲ってくるかわからない敵に対し、各国GUYSは油断なく警戒を続けていた。 そして、場所は中部太平洋ビキニ環礁。その海底深くにおいて、世界の海を守るGUYSオーシャンは、数日に渡って 捜し求めていた獲物をとうとう追い詰めていた。 「隊長、ソナーに感あり。でかい……ターゲットに間違いありません。現在北東に向かって速力十二ノットで移動中」 「ついに姿を現しやがったか。ここのところ世界中の海で船舶消失事件を起こした犯人が」 GUYSオーシャンの移動司令部である、大型潜水艦ブルーウェイルのブリッジで、隊長の勇魚洋は獲物を見つけた サメのように笑みを浮かべた。 怪獣軍団の攻撃が終わって間もなく、大西洋、地中海、インド洋、太平洋を問わずに大型船舶が突如SOSとともに 消息を絶つという事件をGUYSオーシャンは調査していた。事故現場の位置と時間から規則性を割り出し、次は このビキニ環礁に現れるだろうと網を張り、見事補足に成功したのだ。 「隊長、攻撃しましょう!」 「待て、まだ敵の正体がわからん。全センサーを使って敵の正体の解明につとめろ、アーカイブドキュメントへの検索も 忘れるなよ」 深海は地上よりもはるかに過酷な世界だ。慎重に慎重を重ねて悪いことはない。勇魚の指示で、海のフェニックスネストとも いうべきブルーウェイルの機能が働き、結論が勇魚のもとに示された。 「敵からMK合金のものと思われる磁場が放出されています。同時に数百万トン規模の金属反応も、これはドキュメントUGMに 記録にあるバラックシップと同じものと思われます」 「バラックシップ……あの強力な磁力で船を引き付けるやつか。ならシーウィンガーでの接近戦は危険すぎるな。ならば、 魚雷発射用意だ!」 ブルーウェイルの魚雷発射管が開き、対怪獣用の大型魚雷が放たれる。敵は強力な磁力を発する怪物だ。その 特性上、金属でできた魚雷は絶対に当たる。魚雷は一直線にバラックシップへ向けて吸い込まれていく。 全弾命中! 勇魚たちがそう確信した瞬間だった。 「これは! て、敵の反応消失……魚雷、すべて通過しました」 「なに! どういうことだ?」 「わかりません。突然、突然ソナーから消えたんです」 GUYSオーシャンの戸惑いをよそに、海底は何事もなかったかのような穏やかさを取り戻した。 しかし、この事件がやがてもうひとつの世界に大変な災厄をもたらすことを、このときは誰も知らない。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔